174話 決着
ここまで来ればもう勝負は決まっている。
団長率いる騎兵隊が敵本陣の最後の防御を突破。そして残存兵や何とか本陣に戻ろうとする敵兵を亜人・獣人部隊が圧倒的な力の差で薙ぎ払っていく。
私は私自身の手でケリを付けるべく、ベゾークトの領主ないしは指揮官がいるであろう敵本陣を目指し乱戦の中、馬を駆った。
「…………! ──ルーデル! ハオラン!」
『分かってる!』
『人間など小道具を使わずとも直接殺れるわ!』
壊滅した本陣から三十騎ほど逃げ出す者を見つけた。恐らくは彼らが私の用のある人物たちだ。
爆弾を使い果たしたハオランたち竜人部隊は自前の槍で殿(しんがり)に残った敵兵を一方的に仕留めていく。
そして逃げ出して行った者の行く手には、竜人よりも巨大な『Drachen Stuka』形態で搭載量の多いルーデルが、残った爆弾を全て投下した。
投下された爆弾が爆ぜる音に驚いた馬は嘶(いなな)きながら急停止し、乗っていた男たち前方へ投げ出される。
「貰ったァァァ!!!」
「──そうはさせん!」
敵大将を追いかけ突出し過ぎたため、横から敵の騎兵が突撃したきた。しかしカワカゼは見事な太刀筋でそれをいなし、すれ違いざまに敵兵を斬り捨てた。
「ご無事ですか!?」
「大丈夫だ! 良くやった!」
馬を捨て走って逃げていく男たちはすぐそこだ!
そう逸る気持ちが、私の視野を狭めていた。
「……ぐえっ!」
「なんだ!?」
突如頭上から声がしたと思ったら、木の上から男が降ってきた。男の手には弓矢と短剣がある。……暗殺者だ。
白目を向いて倒れる男の額には図太い矢が刺さっていた。
「助かった、シャルフ……」
「フン……!」
弓兵は前線の援護のはずだが、シャルフ率いるエルフ弓兵は馬を使い勝手に敵陣最奥までついてきていた。
作戦にない独断先行ではあるが今はそれに助けられたのだ。
「どこに行く……?」
「く、くそ! なんだこの化け物は!!!」
漆黒の軍服に身を包み、巨大な翼を持つ竜人とも違う半人半竜のルーデルが、完全に敵将の逃げ道を封鎖していた。
あの巨大な鉤爪は竜人とタイマンでも勝てるほど凶悪な武器になる。爆弾や機銃もなくとも、今やただの爆撃機乗りではないルーデルにとってそれはほんの少し攻撃の手段が変わっただけに過ぎなかった。
「こんにちは。私はレオ=ウィルフリードです」
私は馬から降り男たちに話しかける。男たちは妖狐族によって完全に包囲され逃げ場はない。
私の左右も歳三とカワカゼが固めていて、その後ろにはシャルフたちエルフが控えている。戦場でありながらここは最高のセキュリティとも言える厳重な警戒態勢だ。
「あなたは……、お会いした覚えがない、ということはベゾークトの領主ではないですね? 確か以前ここを通った時に挨拶はしたはずですので……」
「お、俺はベゾークトの将軍、グラ──」
男たちの真ん中で地面に座り込んでいる、少し立派な鎧を着た初老の男が話し始めた。
「ああ、自己紹介は結構です。それより、今すぐそちらの兵士に戦いをやめるように言って貰えますか? これ以上無駄な血は流したくない」
「…………」
男の返事は沈黙だった。
「ではそれはこちらで何とかします。次に、ベゾークトの街を解放するように領主に言ってください。別に領土を併合する訳でも物資を奪う訳でもありません。ただ武装を解除しここを通して欲しいのです」
「…………」
またしても男は沈黙を貫く。
「はぁ……、話になりませんね。──今からお前たちを拘束する。無駄な抵抗はやめて武器を捨てろ。命を奪ったりはしない」
「…………」
「両手を挙げてゆっくりその場で立て。妙な真似したら──」
「うぁぁぁぁ!!!」
「チッ……!」
躍起になった男は剣を抜き私目掛けて一直線に襲いかかって来た。護衛の兵士たちもそれを見て一斉に一か八かの勝負を挑んでくる。
「相手が悪かったなッ!」
歳三は一瞬で防具の隙間から剣を持つ男の腕を斬り落とした。向かってくる他の兵士はカワカゼが軽く流し、後ろから別の妖狐族が斬り捨てる。
立つのが一瞬遅れた兵士はエルフ弓兵の斉射によってハリネズミとなって転がっていた。
「……あ、あっ! ……あぁああああああ!!!」
右手の手首から先が無くなった男は痛みのあまり叫びながら転がり回っている。
「動き回るな。失血死するぞ」
「うぐぐググッ……!」
怒りからか顔を真っ赤にし苦悶の表情を私に向け睨みつけてくる。それが彼にできる唯一の抵抗なのか。
「今ならまだ助かる。戦闘を止める、街を無事通らせる。この二つを約束してくれるのなら今すぐ私たちの軍医がその傷も治療しよう。うちの優秀な治癒魔導師ならその手もまだくっつくかもしれんぞ」
「断るッ……!!!」
即答。何が彼をそこまで突き動かすのか。
「はぁ……。歳三」
「ふん」
「ぐァァァ!!!」
歳三は男の右腕を、今度は肘から先まで斬り落とした。これではもう右腕はくっついても使い物にならないだろう。
「私はあまりこういう手段は好きではない。だがお前一人の命で今戦っている罪のない兵士たち何百人の命が助かるなら迷わずそれを選ぶ。天秤にかけるまでもなく、な」
「わ、分かった! 分かったからもうやめてくれぇぇぇ!!!」
歳三が男の肩にそっと刀を乗せた時、やっと降伏の意を示してくれた。
「孔明、終わったよ」
『……流石です、我が君よ』
これにより新時代の戦い方によって、この戦争における初めての勝利を飾ったのだ。
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