2-11. 瑠璃色の刀身

 くっ!

 敵は攻撃の効かない身体にドラゴンスレイヤー、活路を見いだせないジェイドは悔しさで顔を歪めながら一旦外に逃げた。

 そして、そっと窓から中の様子をのぞく。


「おやおや、イケメンに逃げられちゃったな」

 ホレスはそう言いながら鎖を引っ張り、ユリアをソファまで引きずると、髪の毛をガシッとつかみ、ソファに転がした。

「痛ぁい!」

 ユリアは苦悶の表情を浮かべる。

「さーて、ドラゴン。この女をヒィヒィ言わせちゃうぞ!」

 ホレスは金色の目で窓をにらみながらユリアの身体をまさぐった。

「何すんの! やめて!」

 ユリアは身体をよじらせながら叫ぶ。

 するとホレスはドラゴンスレイヤーの刃をユリアの頬にピタリと当てる。


 ひっ!

 氷のように冷たい瑠璃色の刀身がユリアを硬直させる。

「暴れると……、この刃が食い込んじゃうかも……しれないよ?」

 そう言ってホレスはドラゴンスレイヤーの刃を少し引く。

 柔らかいすべすべとしたユリアの頬が切れ、血がタラリとたれた。


 ひぃぃぃ……。

 ユリアは何も言えなくなり、涙がポロリとこぼれる。

「さて、ショータイムといこう!」

 ホレスは窓に向いて叫ぶと、ドラゴンスレイヤーの刀身の平たい面でユリアの白いワンピースをパン! と叩いた。

 すると、ワンピースは一瞬閃光を放ち、ポン! と破裂音を伴いながらはじけ飛んだ。

「い、いやぁ!」

 ユリアは全裸となり、かろうじてボロきれが大切な所を覆っている。

 なんとかしたいと、もがくユリアだったが、鎖にガッシリと縛られてどうにもならない。

「なんだ、お前まだ男を知らんのか。イケメンとよろしくやってると思ったんだが……」

 ホレスはいやらしい笑みでユリアの身体をなめるように見た。

「うっうっうっ、やめてぇ……」

 ユリアはか細い声をあげて泣く。

「さーて、ドラゴン! こいつが女になるところをしっかりと見とけよ!」

 ホレスはそう言うとユリアの両足をつかんだ。

「ダメぇ!」

 ユリアは足を動かそうとするがビクともしない。まるで鋼鉄に足をつかまれたかのようにほんの少しも動く気配がなかった。

 その時だった、バン! という扉を蹴る音がしてジェイドがダッシュで駆けてくる。

 血をふりまき、美しい顔を苦痛でゆがめながら瞳を真っ赤に輝かせて飛ぶようにホレスに接近した。


「バカめ!」

 ホレスはドラゴンスレイヤーを振り上げ、ジェイドめがけて振り下ろそうとする。

 その時、ボシュ! という音がして盛大な蒸気がホレスの目の前に吹き上がった。ジェイドは水魔法と火魔法を同時に出し、煙幕としたのだ。


 くっ!

 ホレスはあてずっぽうにドラゴンスレイヤーを振り回したがジェイドには当たらない。

 直後、ジェイドがホレスの頭上に現れた。

「ワシには攻撃など効かん!」

 そう言いながらドラゴンスレイヤーを構えなおすホレス。

 直後、ジェイドは何かを振り下ろす。


 うひぃぃ――――。

 奇妙な声を残して、ホレスは消えた……。

「えっ!?」

 ユリアは驚いた。緑色の巨体が一瞬で消え去ったのだ。

 あっけに取られていると、ジェイドがアイテムバックを見せる。なんと、ホレスをアイテムバッグに収納してしまったのだった。

 通常、生き物を吸い込んでしまわないようにアイテムバッグにはセーフティロックがかかっているが、ジェイドはそれを解除して武器として使ったのだ。


 クッ……。

 ジェイドがガクッとひざをついて、血がポタポタと落ちる。

「あぁっ! ジェイド!」

 魔法の鎖が解けたユリアはボロ布で身体を隠しながら、うずくまるジェイドに回復魔法をかける。しかし、ジェイドの傷はふさがらず、血がだらだらと流れるばかりだった。


 ツゥ……。

 ジェイドは痛みに顔を歪ませる。

「えっ!? なんで効かないの!?」

 ユリアは必死に何度も治癒魔法をかけた。

「神の力でついた傷には魔法は効かないんだ」

「じゃあどうしたら治るの?」

 ユリアは涙をポロポロ流しながら聞く。

「自然治癒で直すしかない。棲み処へ帰らないと……」

 ジェイドはアイテムバッグからユリアの服を出しユリアに渡すと、立ち上がったが……、貧血でふらついた。

「あぁ!」

 ユリアは急いで支える。ジェイドの暖かい血がたらたらとユリアの白い肌を赤く染めながら流れていく。

「ジェ、ジェイド……?」

 ジェイドは荒い息で凄い高熱を発している。

 ユリアはことの深刻さに目の前が真っ暗になる。

「えっ!? ジェイド、ジェイドが死んじゃう――――!」

 ユリアは急いでソファにジェイドを横たえると、傷口に布を当て、ジャケットの袖を器用に縛って止血をする。

 ジェイドは苦しそうに荒く息をするばかりだった。

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