1-4. 破られたブラウス
その日は馬を替えながら一日中走り続けた。ユリアは青い顔をしてガラスのなくなった車窓から、陽の傾きだした黄色に染まっていく風景をボーっと眺める。
すると、見慣れた小さな山が見えてきた。
その山は小さいころティモと一緒によく遊んだ遊び場だった。確か犬くらいの大きさの傷ついたトカゲの幼生をティモが見つけて、ユリアが治癒魔法で治してあげたりしたのもあの山だった。今思えば、小さな羽が生えていたのでワイバーンの幼生だったのかもしれない。あの頃は毎日朝から晩までティモと一緒に野山を駆け回って、毎日が楽しい冒険だった。
「ティモ……」
ユリアはティモに裏切られたことを思い出し、涙をポロリとこぼした。ティモがゲーザの色仕掛けに堕ちたということは、そういうことに興味がある歳になっていたということなのだ。なのにユリアはそういうティモの成長を無視し、いつまでも子供の関係を維持し続けようとしていた。もちろん、背も高くなり、ヒゲも生えてきたティモの変化に気づかない訳ではなかったが、ユリアには大聖女の仕事のことしか頭になかったのだ。従者としていつもそばに置きながら距離を保つユリアのやり方を、生殺しだと恨んでいたのかも知れない。しかし、ティモと男女の関係になることはとても想像もできなかった。
ユリアがどうしようもない事を延々と考えていると、ジフの街に馬車は進んでいく。石造りの大きな城門をくぐり、馬の
やがて見えてきた大きな屋敷の前で馬車は止まる。領主の屋敷についたのだ。優美な曲線を描く鉄のフェンスに囲まれた屋敷は、手入れされた植木の庭園に囲まれ、ジフの街の中心部に潤いを与えていた。
ユリアはまた縄で後ろ手に縛られ、離れの二階まで連行されていく。
男はドアを開けるとユリアを突き飛ばし、身体をなめ回すように見ると、含みのあるいやらしい笑みをニヤッと浮かべた。そして、
「お前はこの部屋から出てはならん。外出禁止処分だ」
と言って、ドアを閉め、ガチャリとカギをかけて降りて行く。
部屋には質素なベッドとほこりをかぶった古い家具がいくつか並ぶだけ、当面ここで暮らさねばらないのかと思うとユリアはゲンナリし、ベッドにそのまま倒れ込んだ。
男は縄を解いてくれなかった。きっと誰かが解いてくれるのだろうと思ってしばらく待っていたが、誰も現れない。窓から夕焼け空の美しい茜色が見えるが、その美しい色もユリアには何の慰めにもならなかった。
ガチャリ!
カギが開けられドアが開いた。
現れたのは中年で小太りの男、領主のザロモだった。
ザロモは脂ぎった顔で、几帳面に整えたひげを指先でいじりながら、ベッドのユリアを見下ろす。
「りょ、領主様……」
ユリアはあわてて立ち上がった。
ザロモはユリアが大聖女として選ばれた時、まるで自分のことのように喜び、いろいろと良くしてくれた男だった。ユリアはホッとしてザロモに微笑む。
ところが、ザロモはカツカツとユリアに近づくと、手のひらでユリアのアゴを持ち上げ、じーっとユリアの顔を眺める。
「りょ、領主様?」
ユリアは朝に切った頬の傷が痛み、顔を歪めた。
「お前、大変なことをしてくれたな……」
ザロモはそう言うとユリアを鋭い目でにらんだ。
「えっ!? 今回の事は公爵派の陰謀です! 私は利用されたのです!」
味方になってくれると思っていたザロモににらまれ、ユリアは焦る。
「ジフの街の代表として、お前を大々的に王都に送り込んだ俺の顔に泥を塗りやがって!」
ザロモはそう言うとユリアをベッドに突き飛ばした。
きゃぁ!
後ろ手に縛られたままのユリアはなすすべもなくベッドに転がった。
「お前の身体で払ってもらうしかないな……」
ザロモはユリアに近づき、ブラウスに手をかけると、一気にビリビリと音を立てながら引き裂いた。
「いやぁ! やめてぇ!」
必死に逃げようとするユリアだったが、後ろ手に縛られていてうまく逃げられない。
「貧相な身体だな。揉んで育ててやろう。暴れるんじゃねーぞ」
ザロモはいやらしい顔でスカートをたくし上げるとショーツに手をかけた。
「や、止めてください! いやぁぁぁ!」
ベッドの上を必死に逃げるユリア。
パン!
ザロモはユリアの頬を平手打ちした。
「おとなしくしてろ! お前なんてもう男を喜ばせるくらいしか使い道が無いんだ」
ユリアはあの優しかった男の
堕ちるところまで堕ちてしまった……。
ユリアはその理不尽な運命を呪った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます