第四章 Web小説の舞台からの脱出 二年生
第71話 二年生
さて、九月になって二年生になりました。
夏休みにモモーナとの仲を深めたらしい彼らは、それはもうあっちの庭でいちゃいちゃ、こっちの庭でいちゃいちゃと目撃証言満載の状態です。
しかも本気で逆ハールートなのか、今までは個人個人で会っていたのに気が付いたら集団化していた。それでいいのか。
モモーナ一人に群がる男たちとして、嫌な意味での学園名物になりつつある彼ら。その異様な雰囲気に誰も苦言を言ったりはしない。
こういう時こそ誰か権力を振りかざしてよ! って思ったけれど、関係者でないなら触らぬ神に祟りなしな気持ちはよくわかる。
ゴードン経由、辺境伯家令嬢の話によると、各婚約者に対する扱いも雑になってきたそう。
あからさまな行動の数々に苦言を呈すると、無視や逆ギレをするようになったとか。
俺も嫌だったけれど、彼らの集団に乗り込んで苦言を呈することにした。一部側近候補ではなくなったとしても、まだその話は広まっていない。
ゴードンたちがさりげなく広めようとしてくれているが、まだ候補も混ざっているから微妙。
近付いた途端、それに気が付いたモモーナが走り寄って来て一言。
「ライハルト様ぁ、今日はクッキーを焼いてきたんですぅ。一緒に食べましょう?」
語尾にはぁとが見えそうなくらい甘い声で勝手に名前を呼ばれた。やめて欲しいです。注意しただけでも話が続きそうなので無視。
絶対に食べないし、受け取らない。さっさと用件を済ませたいので、モモーナに駆け寄って来た男どもに言う。
「随分と噂になっているようだが、彼女が友人だと言うなら、節度を持った付き合いにすべきだと思うのだが」
周囲が注目している。ですよね。
モモーナの方には顔も向けません。熊さんがモモーナの視線をさりげなく切ってくれている。
本気でモモーナの事が好きなら、さっさと自分有責で婚約解消をするのが人として正しいと思うのだけれど、こいつら皆頭おかしいの?
「私たちは仲の良い友人です。以前も言ったと思いますが」
王子に対していやに強気だな。
「ライハルト様も一緒に食べましょうよぅ」
「さすがモモーナ、優しいな」
「殿下もどうぞ。モモーナのお菓子はとても美味しいですよ!」
皆の頭がわいているとしか思えない。
「結構だ」
強めに拒絶した。食堂の食事さえ食べられないのに、怪しい人物の手作りを食べる訳がない。
あれですか。魅了効果のあるクッキーとかですか。そういう話も読んだ記憶がある。
「そんなぁ~。モモーナ、早起きして頑張って作ったのにぃ」
俺はモモーナに返事をしたのではない。おかしな事を言ってきた令息に言ったのだ。完全に無視しているのに、勝手に話に加わらないで欲しい。
熊さんの向こうから平気で話に入って来る。目も合わせていないのに、その根性は凄い。
そもそもが俺はここに加わる予定ではなかったので、俺の為に作ったわけでもないのにそう言えるのも凄いと思ってしまった。
突進されるのを躱していただけで、まともに会ったのは今回が初めて。初対面で手作りクッキーとかそれも凄い。
身分とか立場がなくても受け取らないと思う。道を歩いていたら、急に早起きして作ったんです〜どうぞぉ〜と言われて、売り物でもないのに受け取る人っているのだろうか。
「モモーナ」
俯いているモモーナの肩に手をやる令息。仲の良い友人ならセーフ。でも雰囲気がアウト!
「モモーナ!」
普通に手を握る令息。婚約者かほぼ婚約者に決まっている相手ならまだしも、婚約者がいる人はしちゃダメ。
こちらは完全にアウト!
「酷いではないですか、ライハルト殿下!」
謎の抗議をされた。
お前らが酷いわ。周囲も呆れている雰囲気。無視して立ち去ることにした。これはもう女性側からの婚約破棄案件でいいよね。
「早速話題になっているぞ、殿下」
カールが楽しそうに教えてくれた。
「話題ついでに、殿下の側近じゃないと言うのが捗りましたよ」
中身は別として、ほんわか笑顔のエヴァン。
「地方貴族の令息令嬢には、今回の評判良かったぞ!」
ゴードン。
地方貴族だけなのね。っていうか、中央貴族の面々は俺の事を何だと思っているのだろうか。
俺はこの一年、学園で何も問題を起こしていない。噂に惑わされ過ぎなのではないかと思う。
「ゴードン、また婚約者の令嬢に集まれないか聞いてくれないか?」
「いや、それよりシェリーが個別で話したいって言ってたぞ」
「シェリー?」
「辺境伯家の令嬢です」
リーリアから補足が入った。
「シェリーともう一人、子爵令嬢が殿下と話したいらしい」
「わかった。予定を聞いておいてくれないか。私の応接室でいいかも聞いておいて欲しい」
「わかったー」
その後、ゴードンから俺の応接室は目立ちそうなので、目立たない場所での面会を希望された。
可能な限り内密が希望なのであればということで、学園が休みで人が少ない週末に、ゴードンの部屋で会うことになった。
そこなら普段から俺もよく行っているので、それほど話題にはならないだろうと判断した。
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