第56話 素手


 まずカナンのほうから、俺へ距離を詰めてきた。


 ――キン!


 俺はそれを、邪剣ダークソウルでもって受け止める。

 正直、この剣の威力は規格外だ……。

 これでニンゲンとやり合うのは気が引ける。

 せいぜい手加減して、殺さないようにしないと……。


 だがしかし、さすがは相手も1位なだけあって。

 カナンの剣ははこぼれこそすれど、俺の剣とうちあっても折れないでいた。


「ふん! けったいな剣を使っているね!」

「ああ……見た目は邪悪だが、頼もしい相棒だ」


 俺たちは剣を挟んでそんな会話を交わす。

 邪剣ダークソウルは、禍々しく煙を放っている。

 そろそろ暴れたいということか……。


 ――キン……!


 俺は剣をはじいて、カナンから距離を取る。

 バックステップで後ろへ。


「どうした……? 怖気づいたのかい……?」


 カナンが挑発してくる。


「いや、こうするためさ……!」


 俺は地面を、思い切り斬りつけた!


 ――ズドン!


「おおっと……!」


 ダークソウルは、地面に対してもクリティカルヒットを与えた。

 地割れのような切れ込みが入り、カナンへと伸びていく。


 カナンはわずかに、バランスを崩した。


「そこだ……!」


 俺はすかさず、カナンに向かって距離をつめる!

 このわずかな隙を、見逃すわけにはいかない!


 ――キン!


「っく……!」


 地面の振動のせいで、カナンの反応は一瞬遅れた。

 俺の剣――ダークソウルが、カナンの剣をはじき落とす。

 カナンの剣は地面に落ちた。


「なかなかやるじゃない……」

「そっちこそ……!」


 これでカナンは武器を失った。

 俺は邪剣ダークソウルを手に握っている。

 もう誰の目にも勝ちが明らかだった。

 ここからカナンが巻き返す方法はない。

 そう思われた――だが。


「スキル発動……!」

「なに……!?」


 なんと驚いたことに、カナンはスキルを発動してきた。

 剣を失ってでもスキルを発動してくるとは……!

 さすがランキングボード1位というだけある。

 しかもまだぜんぜん勝ちを捨ててないところからも、アレスターよりは確実に格上。


「《奪取スティール》――!」


 カナンはそう唱えた。

 すると……。

 俺の手から、邪剣ダークソウルが奪われてしまう。


「なんだって……!?」


「はっはっは……なかなかいいじゃないかこの剣……!」


 カナンは邪剣ダークソウルを手に持って、その握り心地を確認する。

 空中を素振りして、俺をあざけるように言った。


「さあて、形勢逆転だねぇ……? 所詮はミレージュ出身の甘ちゃん勇者ってことかい」

「っく…………!」


 俺は武器を失い、カナンに奪われた。

 そして、俺の素のステータスは「攻撃力0000」だ。

 絶体絶命のピンチ……!

 俺にはもう、なす術がない。


「…………なんて、昔の俺なら思ってたはずだ……」


「…………?」


 俺はにやりと、不敵な笑みを浮かべる。

 しかし、これは決してはったりではない。

 俺にもまだ、勝ち目がある。


「…………? なにがおかしい!」


「いやな、俺も……強くなったなと思って」


「はっはっは! 自分の状況がわかっていないようだね?」


 以前の俺なら……。

 アレスターと決闘をしたころの俺なら、ここであきらめていただろう。

 だが、今の俺はもう、逃げない。


 そう決意を固めたときだった。

 俺の後ろから――。


「ロイン……! 頑張って!」


 クラリスの声がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る