第54話 1位と1位


 ――男は俺に、斬りかかってきた。


 俺は、念のため、忠告をする。


「おい、やめておいたほうがいい。俺を攻撃するな」

「うるせえ! 生意気なガキだ! くたばんな!」


 だが男は忠告を無視して、俺の鎧に刃を――。


 ――キュイン!


 男の刃が、俺の鎧に到達するよりも先に、俺の《勇者の指輪》が反応した。


「ぐわーッ!」


 男の手元をめがけて、勇者の指輪から赤い光線が発射される!

 思わず、男は剣を手から放し……。


 ――ドン!


 男自身の足の先に、剣が突き刺さる。


「ぎえええええええええええええええええ!!!!」


 男は絶叫し、その場に倒れた。


「だから忠告したのに……」


 俺はちゃんと、攻撃をしないほうがいいと言ったはずだ。

 俺には勇者の加護が働いているから、こんなチンピラの攻撃、避けるまでもない。


「くそ……! なんだその力!?」


 男の後ろにいた取り巻きたちは、恐れおののいた。


「そいつの自業自得だ」

「っく……! 覚えていろ……! この街にはな、あの御方がいるんだからな!」

「…………?」

「へっへっへ裏の勇者さまだぜ……!」

「裏の勇者……?」


 男の取り巻きは、そんな意味深な言葉を残した。

 そして男を引きずって、どこかへ去っていく。


「ふぅ……面倒な奴らだったな……」

「まあ、どこもおかしなヤツはいるものよ」


 俺たちはようやく一息ついてギルドのテーブルに腰かける。


 すると、奥から一人の女性が歩いてくるのが見えた。


「なんだ……? 次々と……」


 女性は、ものすごく身長の高い、スラっとした美人だった。

 赤ピンク色の長髪で、スタイルがものすごくいい。

 きつめのリップを塗っていて、目つきもするどく、威圧的な印象だ。


「あなたは……?」

「私はカナン・ルブレージュ。どうやら私のギルドで、面倒事を起こしてくれたようだね?」


 カナンと名乗った女性は、そう言って俺たちを睨みつけた。


「おいおい、面倒事を起こしたのは俺たちじゃない。それに、私のギルド……?」

「そうだ、このギルドのランキングを見なかったか……?」


 カナンはそう言って、ランキングボードを指さした。

 ランキングボードはちょうど、俺たちの座っている席からも、かろうじて確認できる距離にあった。


「カナン・ルブレージュ…………! 1位、Sランク……!?」


「そうだ、私がこのギルドの1位。悪いが君らのようなよそ者に出す酒はない」


 どうやら歓迎されていないようだな……。

 それにしても、どうしてそう最初っから喧嘩腰なんだろうか?


「お前たちはどこから来た?」

「ミレージュだ」


「ミレージュだと……!? ふん、勇者アレスターの街か……。あんなひ弱な連中……。おめでたい連中だよ。そんなクソみたいな町から、何の用だ?」


 カナンは、そんなふうに俺たちのホームタウンをこき下ろした。

 なにもそこまで言わなくてもと思うが……。

 確かに、この街とはだいぶ雰囲気が違う。


「ちょっと待て、ミレージュがクソだと……?」


「ああそうだ、あそこのギルドは雑魚しかいねえ。この街の冒険者に比べたら、ぬるま湯みたいなもんだ」


「へぇ……」


 さっきから、ずいぶんな言いようだ。

 だが、それだけ腕に自信があるのだろう。


「なあアンタ。魔界から襲撃があったことは知っているのか……?」


「なんだ……それは……?」


「そうか、知らないか……」


 どうやらカナンは、例のデロルメリアの騒動を知りもしないらしい。

 そのくせ、今の地位に胡坐をかいて俺たちのギルドを侮辱した。

 ミレージュの冒険者たちは、必死に戦ったというのに。


「おい、さっきの言葉、撤回してもらう」

「は…………?」


「ミレージュでは、魔界からの襲撃で、たくさんの冒険者が命を落とした。その間、この街の連中は何をやっていたんだ……?」

「っく……! そんなの、知るか……!」


「まあ、そういう態度をとるならそれでもいい。だが……今後、魔界からの襲撃があったときに、この街の冒険者たちの力も必要になってくる! 俺はそのために、ここに来た」

「は……! さっきから、アンタもずいぶん偉そうだね。なんだい? 勇者さまの使者だとでもいうのかい?」


 カナンはそう言って、俺を威嚇した。

 俺は立ち上がって、言った。


「いや、俺がその勇者だ」


「は…………?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る