第129話 中央都市 ラビット戦
(何だコイツ!)
まさか素手の殴り合いでヴァルガンが負けるとは思わなかった。
当主様から殺すなと言われたが、ヴァルガンを叩きのめしたヤツを相手に手加減などできない。
手加減して床に転がしてる護衛二人よりも遥かに強いのは確かだ。無駄に硬い盾を持ってはいたが。
それに……
あの魔法はヤバイ。
発動までがやたら早い上に連発まで可能。
ヴァルガンの馬鹿みたいに頑丈な腹を抜いていた。あの対魔法が付与されていたはずの革鎧の上からだ。
事前に聞いていた情報など当てにしていなかったが、近接戦闘が無駄に強い魔法使いなんぞ聞いた事もヤリあったことも無い。
スピードで圧倒する!
そうだ、あの指の指向先が危険なのであれば、そこから外れればいいだけだ。
ちょこまかとコチラの攻撃をギリギリで防いではいるが、そのダメージは蓄積されてる。
そろそろ限界だろう。
魔法を避け、そして一撃を叩き込めば!
「チッ!」軽かったか?……一瞬、決まったと思った後ろ蹴りだったんだが。いや、自分で後ろに飛んだのか?ヤリずらい奴だ。
だが、「もう後ろは無いぞ!」壁まで吹っ飛んだんだ、逃げ場はない!
しかし、やはりダメージを最小限に抑えていたのか、往生際が悪く尚も指先を向けて来た。
もう、それは見切った!当たりはしない!
だが、光栄に思うがいい!その首を刈り取るのに、私の最高の蹴り技を見せてやろう。
「トドメだぁっ!」
最小限の動きで奴の魔法をかわすと同時に、私は跳んだ。
—————————
あの大男も中々の化物じみた強さではあったが、コイツはそれを上回った。
外では投げ出した大男に対してだろう、「治癒師を早く!ポーションを使え!」等と叫ぶ声が聞こえる。
アレともう一度ヤリ合うのは骨が折れるのでトドメを刺しに行きたいところだが、コイツがそれを許してくれそうにもない。
飛んでくる攻撃はどれもが重い。
なんとか防いでいるが、まともに受けていい攻撃ではない。
しかも、コチラのバレットが当たらないときてる。
指の指向先から放たれる特性に気づいたのだろう。
普通の人間ならソレに気付いたところで避ける事などできない。一発や二発ならまだしもだ。
ハリウッド映画やアニメじゃないんだぞ!
銃弾を躱しながら戦うって、ヒーロー並みの化物だ。
このままではジリ貧だ。
そらし、いなしてはいるがダメージの蓄積は免れないし、すばしっこいウサ耳女をバレットで捉えきれない。
ウサギ?そう、ウサギだ!
狩猟していた頃、静止しているウサギを仕留めるならいざ知らず、跳んで逃げるウサギを一粒玉の銃で仕留める事など俺には無理だった。
クレー射撃でも競技である"ラビット"は散弾を使用していた。日本ではマイナーだったが。
バレットがあまりに命中率が高すぎたせいで忘れてたな。敵がそれに対して脆かったせいでもある。
あの支店長が差し向けた傭兵部隊と戦った時に痛感した"瞬間火力"それも点ではなく面での威力だ。
継戦能力は申し分なく単発火力も20mmが撃てるようになったバレット改を更に汎用性を持たせ、面制圧型を使えるようにした。
ハイランダー達が持っていたクレイモアと呼ばれる剣を見て思いついたのだ。
『指向性散弾』と呼ばれる兵器がある。
"クレイモア"と呼ばれる対人地雷を大きくしたような兵器だ。
鉄球を大量に、かつ広域にばら撒く。
その威力は一粒一粒が散弾銃なんかよりも大きく、威力もその比じゃない程に強力であった。
同等の威力とまではいかなかったが、それでも多数かつ広域の人間を一気に殺傷するのに申し分ない程の威力はあった。
ヤツは戦闘に夢中だ。
確かに強い。それ故、同程度の強さの人間との戦闘は慣れてないのかもしれない。動きがいくら早かろうがパターンが読めれば対処できる。
モーちゃんとラッドを巻き込まないよう位置を調整、わざと蹴りを食らって後ろに吹っ飛びスキを作った。
横目でモーちゃんとラッドを確認する。
ついでに、ベッケルの爺さんも視界に入った。
「トドメだぁっ!」ウサ耳女が決めにきた。
残念だけど、お前は俺を舐めすぎた
手の平をかざすと同時に『指向性散弾』を発動すると、無数の魔弾を一瞬に受けたウサ耳女は吹っ飛び
、壁や床・天井まで穴だらけのボロボロになった。
ズタボロになった女を見てようやく終わったと「フゥ…」と、息を吐いた。
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