第123話 言質 閑話
「これは、私からの忠告…いやアドバイスです。即刻、相手領主に謝罪し、我々の同胞である彼を止めてもらう様お願いした方がいい」
目の前の協商連合国の使節団代表に対する、私ができる最大の助言である。
大量の、それも神が遣わした転移者達に支援や繋ぎを作る為にミッドガルドには各国より使節団や使者が派遣されている。
事は先日、彼からの報告により知らされた同胞の拉致・誘拐、武力行使。
彼の恩人である領主貴族に対する策謀。
狙った訳ではないにせよ、よりによって彼に対して度重なる敵対行動をとったとされる協商連合国のタカ派の連中に同情する。
勿論、それに巻き込まれる人々にもだ。
彼には、「なるべく穏便に」とは、言えなかった。
それほどまでに、彼らの行いは卑劣であると感じたからだ。
「なるべく無実の人間への被害は最小限に」とは言っておいたが、「立ちはだかる者は総て敵として行動する」と言われれば、私としても何も言えない。
国境を超え、既に国内に入り込んでいた彼からの報告を受けて協商連合国・サウザランド両国の使節代表を呼んで話しを聞く事になった。
事前にどのような件についてかは知らせておいた。
私の側には、ミッドガルドの高官と大司教、聖教国の代表である枢機卿が立ち会っている。
「これは重大な侵犯行為ですぞ!」
国境の検問所を強行突破したのは彼から聞いてはいたが、まさか警備隊を皆殺しにしていたとは……
「彼はそちらの方から攻撃を受けたと言っております。それに、彼は幾度となく貴国の手の者から危害を加えられており、その行動には正当性があると思うのですが?」
だからと言って国境警備隊を皆殺しにしていいとまでは流石に思わないけど。
「しかし、彼自身は実質的な被害を受けてはいないのでしょう?いささか、やりすぎなのでは?」
サウザランド側は、今回の協商連合との諍いを大事にはしたくない様子。
「殴られるまでは黙って見てろと?殺されるまで何もするなと言うのなら、貴方はそうしますか?ついでに言えば貴方の国の貴族が被害を受けたのですよね?」
未だに辺境伯への公式な謝罪や賠償の話しはなされていないらしい。
私達の感覚では分からない貴族の矜持ではあるが、このような反応を受ければ誰だって頭にくる。
かくして辺境伯は彼に報復攻撃を依頼した。
いや〜、その時の彼の満面の笑みが目に浮かぶ!
「とにかく、我が国はその男の身柄を拘束し、我が国の法で裁きます。協力して頂けないのは残念ですが、こちらの対応については口出し無用に願います」
協商連合側はあくまで彼と敵対する方針を変えないようだ。
「残念ですが……」
貴国は死体の山を築く事になる。
彼がこの短期間でどれだけ暴れ回ったかなどは教えてあげられない。
今回、彼の戦力として傭兵と魔導師を味方に暴れてる。という体にしてある。
私が両国の代表にこの件について話している事は、彼は承知している。
彼の目的達成は既に揺るぎない段階まで来ているのだから問題無いとの事。
一連の首謀者達への報復は彼にとっては確定事項。
この代表は悪人ではないのだろうが、やはり我々とは感覚が違うのだ。
彼一人をどうこうしようが国としては当たり前で、我々との関係に溝をつくる等とは思っていない。
思っていた所で自分達が優位な立場であると信じて疑わないのかもしれない。
今はまだそうでも、これから先はどうだろう?
既に喉元に刃が突き立てられようとしているぞ?
忠告はした。
「分かりました。その代わりと言ってはなんですが、今回の彼の行動に関して、我々とは一切関係しないとご承知おきください」
「勿論です。では、私は本国にそう報告致しますので、これにて」
両国の代表が退出するのを待って、ミッドガルドの高官が口を開く。
「ご同胞はよろしいのですか?」
よろしいも何も、心配すべきは相手の方である。
やり過ぎないかが心配だ。
「それより、まぁ、言質は取れました。お三方が証人です。わざわざありがとうございました」
「これだけで宜しいのですかな?何かあの国に手を回す事もできますが…」
見るからに聖職者の微笑みのままに、中々怖い事を言うご老体。
「いえ、始めに言った通り、今回の証人となって頂ければ他は何も。同胞に手を出した代償はキッチリと払う事になるでしょうから」
とにかく同胞団としては、今回の彼の行動に対して、言質を取る事ができれば良かったのだ。
これで、彼がどれだけ暴れようが我々が関知するところではなくなった。
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