壊れた星の直し方(10)

 そして俺達が向かったのはバイト先……では無く、我らが本拠地、文学部室最果てだった。


「さて、それじゃあ早速バイト先まで向かって欲しいのだけど」


 そう言って部長は積まれた本の上に置いてあったプリントを一人ずつに渡していく。場所は立川の商業ビル内の飲食店。仕事内容はそこでの接客業務とのことだった。


 案内を読んだ面々の表情は様々で、辻占はいつも通りのミステリアスな微笑を浮かべ、夏穂は人生初めてのアルバイトに心を躍らせているのか目が輝いている。鹿子はと言うと、分かりやすく渋面を顔に張り付け、そのすぐ後に表情が絶望に染まった。そりゃそうだ。人前に出ることが得意でない鹿子にとっては接客業など論外。完全に専門外の分野なのだ。


「美張ちゃん、安心してちょうだい。ここのオーナーは私の知り合いだから先にこっちの事情は通しておいたわ。敢えて失敗しろ、とは言えないけど、多少失敗しても他のとこよりは甘く見てくれるはずよ。あらかじめ言っておくべきだった私も悪いけど、今回は社会経験と思ってどうか引き受けてくれないかしら?」


 鹿子の表情を見て部長がフォローする。部長は父親の仕事柄、アルバイトのオーナーの知り合いが多く、その為求人募集の情報に関して詳しい。俺も数度お世話になったことがある。そして今回のバイトもその例に漏れないようだ。


 渋々ながらも鹿子は部長の言葉に納得し、プリントを折って鞄にしまった。


 どうしてあらかじめ他の部員に説明しておかなかったんだ、と抗議の視線を部長に向けたが無視されてしまった……。部長め、都合の良いときだけは気付いていないふりをしおって。


「さあ、それじゃあ全員支度も済んだだろうし、目的地まで向かおうか」

「りょーかいでーす!」


 そういって先導したのは部長では無く、意外にも辻占だった。そして辻占は既に北窓夏穂という新しい子分を手に入れたようだ。……いや、この場合夏穂の方が勝手に手下になったのか? コイツ、割と誰にでもすぐ尻尾振るし。


 さて、それでは俺も行くとするか。そう思ってスクールバッグを肩に掛ける。


「待ちなさい、初狩君」

「はい?」


 足の重い鹿子に続いて部室を出ようとする俺を、部長が引き留めた。よくよく見ると部長は帰り支度を済ませるどころか長い間閉ざされていたカーテンまでも開け始めていた。俺は部長が何をしているのか理解できず、俺はその場に立ち尽くしている。


 辻占たちが待っている様子は無い。俺達を置いて先に行ってしまったのだろうか。

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