欲
気づくと月は翠にキスされていた。
翠の舌先が唇を舐め上げるとビクビクッと痙攣する。
翠は何が起こっているのか理解が追いついていない月に舌を無理矢理入れると同時に薬のような物を押し込む。
「…っ⁈」
…たぶん、これは飲んだらダメなやつだ。
月は本能的な危機感を感じ、掴まれている無理矢理手を振り解こうとするが翠の華奢な体からは想像できないような力でそれを静止された。
「んぐっ…!」
そして必死な抵抗も虚しく、強制的に飲まされる。
「…げほっ、何するんだよ?!」
「ごめんね、不味かった?」
「そんなの…どうでもいいっ!」
今はもはや何を飲まされたなどどうでもよかった。
それよりも友人からキスをされた事のショックが大きい。
「何で…こんな事するんだよ。
星川と僕は、友達…だろ?」
「ん?あー、入学式の時友達になろうって言ったの僕だったね?
悪いことしたなー。あの時は君と早く近付きたくて嘘ついちゃったんだよね。」
そういうと月の前でにっこりと笑顔を浮かべながら…
「僕ね本当は月くんの事友達だと思った事、一度もないよ?」
そう言った。
「ごめんね?」
月はもう何もわからなかった。
友達だと思っていた。
勝から庇ってくれたのも
家に呼ばれてたくさん語り合ったのも
誰よりも僕と一緒にいる事を優先してくれたのも
全部初めてだった。
全部全部…嬉しかった。
こんな思いやりのある優しいやつが友達なんて幸せだって…
翠が居てくれるなら他に友達なんていらないと思ってた。
それはこの先もずっと変わらないだろって。
それなのに友達だと思っていたのは自分だけだったのか?
星川にそんなこと言われたら僕はもう…なにも信じられない。
月はそう思うと涙が止まらなかった。
「…ごめん、月くん泣いちゃったんだね。
でもね?僕の月くんに対するこの気持ちは友達なんて薄っぺらい言葉で言い換えられるようなものじゃないんだ」
そういうと再び月に口付ける。
「…っやめ、ろ!」
「やーだ。」
体が異常に熱い。
得体の知れない感覚に恐怖を感じ、全ての力を振り絞り手を解こうとするが何処からそんな力が出ているのか月の細い腕はびくともしない。
「っお前なんか…友達じゃないっ」
酷いことを言ってるのは分かってる。
「うん、そうだよ?」
「…星川なんで嫌いだっ!」
あとで謝ればいい、あの時はびっくりして思ってもないことを言ってしまったと。
「うーん、それは結構心にくるかも?」
翠は眉を片方だけ下げて冗談ってぽく言う。
何も届いてくれないのか…?
「お前にこんな事されるくらいなら勝にあのままやられて病院言ってるほうがずっと良かった…」
今までのは全部冗談だったと笑って、いつもの星川に戻ってくれ…。
そう願って月は最後の抵抗の言葉を口に出した。
「………ふーん?そんなこと言っちゃうんだ?」
・・・・・。
その言葉を聞いた瞬間もう無理なんだと悟った。
月の悲痛な願いは無駄に終わってしまったのだ。
「でもいいよ、僕もう我慢しないことにしたからその発言は今回だけ許してあげる。だっていまから月くんの事僕のものに出来るんだもん。」
「今まではさ?寝ている月くんを抱きしめるだけで我慢してたけどそれも今日で終わり。」
「これからは泊まりにくる度、月くんの体が僕を覚えてくれるように…愛してあげるからね?」
そう言って狂ったように捲し立てながら歪んだ笑顔を見せる彼に恐怖を感じた。
「…?!」
やばいやばいやばいやばい。
逃げろ、脳のセンサーが体にそう働きかけるが何故か思うように動かない。
「あーもうそんなに怖がらなくても大丈夫だよ。
気持ち良くなるお薬もちゃんと入ってるから。
だってその証拠に…月くんさっきからキスで感じてるでしょ?」
…は?感じてる?
星川にキスされて?
その事実に気づいた瞬間顔が一気に熱くなった。
「あーそんな可愛い顔されちゃったら僕、手加減できないよ?」
「っ…。や、やめ…!」
翠は月の服を両手で掴むと…
ビリビリッ…。
物凄い力で服を引き裂かれた。
「これでもう逃げられないね?」
さっきまで優しい微笑みで僕を見つめてくれていた星川。
その顔を見るとこんな僕でもこのまま生きていてもいいんだと安心できた。
…今では恐怖しかない。
僕の服だった物を手首に巻かれベットの頭上に固定され、服を脱がされたあと
星川は僕に何度もキスをした。
そして僕の衣服を剥ぎ取る。
必死に抵抗しようとするがさっき飲まされた薬の作用なのだろうかぜんぜん動かない。
そして翠は月を愛した。
僕は今友人に何をされている?
考える暇もないほどに翠は月をひたすら愛して続ける。
「やめ…て。ほ、しかわ」
もっと僕を感じて。
その行為で月は限界に達してしまった。
飲まされた薬のせいもあり頭がぼーっとして上手く思考出来ない。
「まだ終わらないよ」
そういうと容赦ない翠の戯れがはじまる。
人からこんな事をされるのは初めてのはずなのに拒めなかった。
「ねえ月くんさぁ?谷川が単純に意地悪してるだけって思ってるの?」
翠は月を確かめながら質問した。
「 ま…さるっ??」
月の口から勝の名前が出ると翠の瞳の奥が熱く燃え上がる。
「…僕の事は苗字でしか呼ばないのに谷川くんは名前で呼んでるのやっぱムカつく」
苛立ちをぶつけるように乱暴に自分の服を脱ぐと月の上に跨る。
恋愛経験も知識もない月は今から自分が何をされようとしているのか分からなかった。
「ねえ?気付いてる?
あの人月くんの事好きなんだよ」
「周りから見ると好きな子にちょったい出したくなってるそれだから」
「この綺麗な髪も猫みたいな目もかわいい唇も全部僕が大事に守ってきたのに」
「ムカつくよね。人がずっと大切に大切にしてきたものを平気で汚すなんてさ。だから…」
そういうと翠は月に自分をあてがった。
「…っほし…かわ?それ、なに…する気?」
やな予感がしてそう聞くと
とびっきりの笑顔で
「…だから、他の誰かに大切なもの汚される前に僕が汚しちゃうね?」
そして月は初めてを奪われた。
…その行為が終わったあと僕は涙が止まらずその元凶の星川に頭を撫でられていた。
「…月くん。そんなに泣かないで?」
「お前なんて嫌いだ」
「んー、やっぱりそれはフツーに哀しいな」
「…」
「もしかして、明日から僕の事避ける気でいるでしょう?」
「無理だよ。だって明日は月くん今日の事覚えてないもん」
「…は?」
「さっき飲んだやつなんだけど、飲む前と飲んだ後の記憶をすこぉしだけ消しちゃう薬だから、さっきの事、明日の月くんは覚えてないよ。」
「…なんだよそれっ?そんなことできるはず…」
「違法な薬だからね?一般には知られてないから知らないのも当然だよ」
「あ、あとねこの薬飲んだ後って副作用で急な眠気に襲われるんだ。
さすがに一気に飲ませると月くんの体が心配だから少しずつ慣れさせていったよ。
身に覚えない?」
…そういえば、ここ最近やたら眠たいときの記憶が薄かった。
今思えば星川の家に泊まってる時だった。
「…もしかして、今までもこんな事…」
「やだなぁ?今日が初めてだよ大切にしてきたって言ったでしょ?」
「まあでも試しに薬を飲ませる前に抱きしめてみたりほっぺにキス…はした事あったかな?」
「…?!」
「まあ今日ほどまではないけど少し抵抗されちゃったな?」
うーん、好きになってもらうのってやっぱり難しいね?
そう星川は難問を解く時と同じように口にする。
そんな事があれば絶対忘れない。
そうなると明日の僕は今日起きた事本当になにも知らない。
という事は…。
恐ろしいことに気づき星川を思い切り睨みつける。
「あ、気づいた?…ふふっ。明日から月くんの初めてを貰い続けられるね?」
やっぱり、
その言葉を聞いてまだ解いてもらっていない手の拘束を外そうとする。
「逃げようとしたって無駄だよ」
「副作用の話したよね?起きてるのもう限界なんじゃない?」
小さい子どもを言い聞かせるような優しい口調でそういうと星川はあの2人でよく星を眺めた大きな窓の側に立つと思い出したように口を開く。
「あ…そういえば大事な事言うの忘れてた」
月明かりに少し哀しそうででも、相変わらず美しい顔が照らされる。
そして一言。
「好きだよ、月くん。」
星川が切なくそう言ったと同時に僕は意識を手放した。
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