その人の知識は、なんだかちぐはぐで……

 「あっ! そういえば!」


 三人でギルドに向かう途中で、ジーナが、とつぜん声をあげて、立ち止まった。

 わたしとユウは、なにごとかとジーナを見る。


 「あの……、なんだか、とても、いまさらなんだけど……」


 とジーナが、ユウの顔をみて


 「あたしの名前は、ジーナです」


 と名乗った。


 「こっちが」


 わたしを指して、


 「ライラ」

 「ライラです」


 ジーナが改まって言うので、わたしもあわてて名乗った。


 「うん、知ってた」

 「「えっ?」」

 「いや、ライラは、あのとき泣きそうな顔でなんどもジーナの名前を呼んでたよね。

  そして、目を覚ましたジーナは、最初にライラの名前を呼んだね。

  だから、わかったよ。

  二人はきっと、大切な友だちなんだね」


 わたしとジーナは、ユウにそう言われて顔をみあわせた。

 ジーナが死ななくてよかった、ほんとうにそう思った。


 「そして、あなたは、ユウさん」


 と、わたしが言うと、


 「あっ、そうなんだ、お兄さんは、ユウさんっていうんだ!」

  あれ……?」


 ジーナは首をかしげ、わたしをにらむようにして、


 「ライラなんでそれ知ってるの? 自分だけもう紹介してもらったなんて、なんかずるい気がするんだけど?!」


 ほっぺたをふくらませた。


 「でも……、ずるいっていわれても、あなたはそのとき、意識不明。血まみれで死にそうだったのよ?」

 「……そうなのか……」」

 「ごめんごめん、ジーナにはまだ名のってなかったね。そう、ライラのいうように、ぼくの名前は、ユウっていうんだよ」

 「ユウさん……んー……やっぱり、なにか不思議な名前……そして、この不思議なにおい、なんだか……あの、やっぱり、そのにおいが」


 鼻をうごめかした。


 「だめだめ、なんかおかしくなる……」


 そして気を取りなおしたように


 「あの、……ユウさん、このあたりの人とちがうよね? なんか服装からなにから、とにかくいろいろ変わってるし……王都からきたの?」

 「うーん……王都かあ……そうではなくて、なんていうか……すごく遠くから、なのはきっと確かで」

 「えっ、じゃあまさか、他の国から」


 とジーナは目をかがやかせた。


 「うん、そうだね、外国……まあ、そんなところかな……」

 「だよねー、とにかく、不思議な匂いするし」


 ジーナはまだ匂いにこだわっている。


 「それで、ユウさんは、なにをしにこの町に?」

 「いや……さっき、ここに着いたばかりで、今のところ、なにもきまってないかな」


  なにか話がかみあっていない気がする。

  やはりよく分からない人だ。

  でも、わたしは思い切っていってみた。


 「あの……もし良かったら、この後、わたしたちの家にきませんか」

 「いえ?」

 「それがいい! 命の恩人だし!」


 ジーナがぴょんとジャンプした。


 「あ、家って言っても、わたしとジーナが二人で住んでいるわけでなくて」


 と、わたしは説明した。

 町外れにある孤児院「ドムス・アクアリス」がわたしたちの住まいで、そこでは、十人ほどの子供たちが生活をしている。わたしとジーナは、そこの最年長だ。もちろん、院長先生をのぞけば、だけど。


 「うーん」


 ユウさんは少し考えていたが、遠慮がちにいった。


 「……いきなり、めいわくでなければ……いいんだけど」

 「ぜひ! 院長せんせいもきっと大歓迎だよ!」


 ジーナが興奮してうなずく。



 街道をあるいていくと、ときおりすれ違う人が、みんな、わたしたちを……というより、ユウをちらっと見る。

 そして不思議そうな顔をする。

 無理もないと思う。


 「ところで、ギルドってどんなところなのかな?」


 ユウが聞いた。


 「えっ、ギルド知らないの?」


 ジーナがびっくりした顔でいった。

 ユウは、わたしたちがきいたこともない、「じゅうりょく」というものについて詳しくしっているのに、冒険者ギルドなんて、どの町にも、そしてたぶんどの国もあるものを知らないと言う。


 「あ……もちろん、名前くらいは、きいたことあるけど……」


 それで、わたしたちは、と言ってもわたしたちの知っているていどのことだけど、冒険者ギルドについて、道道、ユウに説明してあげた。


 (この人って……)


 そして、わたしが気がついたことは、ユウは、おおげさな言い方をすると、わたしたちの暮らしているこの世界について、具体的なことをほとんど知らないという事実だ。

 名前はきいたことがある、でもじっさいに見たことがない、まるで……まるで……、

 そう、知らない世界の話を、本で読んだような、そんな知識なのだ。


 「そうか、こうした地方では、その冒険者ギルドが、最低限の治安維持の働きも請け負っているってわけか……たしかに、それしかないのかもしれないな」


 しかし決して知識が少ないわけではなく、今も、なにか難しいことをつぶやいている。

 そんなふうに話す様子をみていると、見かけとはちがって、わたしたちより、ずっと歳上の人のようにも思えるが……どうもなにもかもが、ちぐはぐアンバランスな人だ。





 「あれだよ! あの建物が冒険者ギルド」


 ジーナが、指差した。

 街道から町に入る、その入り口のところにたつ、石造りの建物だ。

 いざと言う時、町をまもる盾となる必要もあるため、頑丈に建てられいる。


 「さっ、行くよ! 報奨金だよ!」

 「ちょっとまって」


 ジーナが駆け出そうとするのを、ユウが止めた。

 いぶかしげな顔をするジーナに


 「あの、ふたりに、お願いがあるんだ」


 ユウが、しんけんな顔でいった。


 「「何?」」

 「んー……悪いんだけど、あの連中をぼくがやっつけた、重力操作については黙っててもらえるかな」

 「えー? なんで? すごい技だよ、みんなびっくりするよ?」


 ユウは、困った顔で、


 「いや……ちょっとね……たぶんだれも知らない技術だと思うんで、いろいろつっこまれると、あとあと、まずいことになると思うんだ」

 「そうなの……? 自慢できるのにな……でも、まあ、ユウさんがそういうなら……」

 「うん、わたしも、ユウさんがいうようにしたほうがいいと思うな……」


 ということで、わたしたちは、打ち合わせをしてから、ギルドに入っていったのだ。

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