【解散と告白】
次の日、家では剣を中心に宇川の家に関することを徹底的に調べてもらい、俺と卓三は朝八時には富谷の家だと思われる場所へと出発していた。朝日が目に染みるなか、いよいよ初の芸能人への復讐だと思うと心が躍った。
到着したのは港区のマンション。ちょっと裏通りに入った所にあり高級と言った感じでもなく、地下の駐車場にも警備員はもちろん誰でも入れるようになっている。
こんな所に今や超売れっ子の芸人が家族で住んでいるとは思えなく、卓三と何度もGPSを確認した。
とりあえずエントランスがよく見える通りに車を停めて待機していると、三十分くらいしてエントランスの奥からキャップにマスク姿の富谷と若い女性が出てきた。
女性の方は特に顔を隠しては居なかったが、ピンクのフアフアしたパーカーを着てフードを被り、大きなメガネをしていた。
二人は腕を組み、三件隣にあるコンビニにへと入る。
俺はカメラ、卓三が動画を担当。卓三が急に「あっ!」と声を上げた。
「あの子あれだよ。元アイドルで今キャスターの木ノ下優佳だよ!うわぁ初めてみた。可愛いなぁ!」
さすが元オタク。色々詳しい。
「し、知らんけど、何?富谷の嫁がそうなの?」
卓三が興奮覚めやらぬ状態で言う。
「いや、違うよ!これってあれじゃない?一発で不倫現場抑えたんじゃない?」
「嘘だよ?マジで?」
俺もそれを聞いたら興奮してきた。
そして、卓三がすぐに二人を追ってコンビニに入り隠し撮って、その後再びマンションに入るまでの写真と動画の撮影に成功。
卓三が車に帰ってくると、にやりと笑い、すぐさまパソコンを開きソフトを起動。するとエレベーター内での二人の会話が聞こえてきた。
「何これ?どういうこと?」
俺は驚いて聞くと、卓三はポケットから様々な小さいパワーストーンを出した。
「あっ!これ・・・」
「そう、僕が作ったパワーストーンシリーズ。この前のはカメラだったけど、今回はマイク入りのタイプを優佳ちゃんのカバンに放り込んだんだよ」
『相変わらず恐ろしいなこの人は・・・味方で良かった』
興奮冷めやらぬ様子の卓三と共に車内で音声を聞いてみると、二人は軽く食事をしたようで、その後まだ時間があったのか、軽くイチャイチャし始めたようだった。
そのリアルな音声の録音にも成功。
そして、彼らはそれぞれの仕事場に向かうようで、二人が別々に出て行くのを見送った。
「とりあえずこれでいけそうだね」
俺がいうと卓三からの返事は無い。見ると、何やらボーっとしながら何度もつぶやいていた。
「マジか・・・生優佳ちゃん見ちゃった・・・」
俺はとりあえず車を走らせた。
家に帰るとみんなの努力で宇川と村尾の情報も色々明らかになっていた。
二人の自宅は宇川が港区の南麻布。村尾が渋谷区の代々木上原駅の近くだ。村尾の顔写真と宇川の大体の週間スケジュールまでわかっていた。そこから一気に事が動いた。
まず次の日に富谷の証拠映像を編集し週刊誌の編集部に送って、宇川の自宅を確認して行動を調査。
三日目には宇川が自分の仲間というか、手下みたいな芸能人を集めて飲み会を開催するという情報が入ったので、りんを家に残し皆で現場に向かった。
卓三には車で待機してもらい、俺とたかこと剣で店に潜入。宇川達のいる個室の隣に俺たちも着席した。そして卓三指揮のもと、色々な証拠を集めた。ようはパワハラ的な映像やセクハラ的な映像の収集だ。
よく番組でもネタとして言われているが、リアルな映像で見ると結構引くものがあった。
例えば、若いイケメンタレントに無理やりキスをしたり口移しをしたりする映像や股間を触ったりズボンの中に手を入れる映像。また、子分的な芸人に暴力や暴言吐く映像なども衝撃的だった。四日目は、それを編集して週刊誌の編集部に送った。
そして、五日目に富谷の不倫報道が流れた。
予定では六日目に宇川の何らかの報道が流れるはずだったが、まったく流れなかった。
七日目になっても流れず、卓三が動画サイトの特別アカウントを作ってぼかし無しの動画を流したが、少数のネット民が騒いだだけで終了。
富谷も番組降板どころか生放送で共演者が救いの手を差し伸べ、うまく対応してくれたために番組で頭を下げただけで、その後は笑いに変えて終わってしまった。
宇川にダメージを与えられなければ村尾にもダメージは与えられず、俺たちは打つ手を失った。
俺たちがリビングで肩を落としていると、りんが言った。
「みんな気にせんといて!私はもしかしたらこうなるんじゃないかと思っていたんだ。芸能界は本当にずるい所なんだよ・・・」
りんの予想によると、宇川の事務所は大手だから週刊誌や各報道機関に圧力をかけて報道されなかったらしい。そして、富谷は芸人仲間がうまく立ち回り、彼を守ったのだという。
俺はやはり芸能関係は色んな意味で手ごわく、何の犠牲を払わない方法じゃ無理だと思った。
最後の手段、得意の「実力行使」しかない。
俺の頭の中でその計画が、ものすごい速さで動いた。
結果、三人やるには最低でも三日はいる。そして、りん以外の人間は明確な未来があるために、俺とは関わらせる訳にはいかない。
俺が頭の中で色々な計画と行動が巡り決断まで至ったとき、いきなりりんが俺の頭をはたきながら言った。
「とにかく私のはいいとして、いよいよ最後の難敵、連の復讐だね!」
俺は即座に言う。
「ちょっと待って!まず卓三さん、たかこさん、そして剣くんにはこれから生きる目的というか、ちゃんとした未来ができたので、今日を持ってこの会を引退というか終わりにして、明日にはここを去ってもらいたいと思う」
当然三人が「え?!」という感じになり、りんが「やっぱり、ろくなことを考えてなかった」と言ったが俺は構わず話を続ける。
「で、俺の復讐はりんと二人でやる。でもちょっと最後の相手は政治家で、りんの芸能人よりもっともっと困難になるので、ちょっと色々準備をしたいから四日間、りんにも明日一度去ってもらって、俺一人に時間をもらえるとありがたい。そんな感じで、よろしくお願いします」
俺は真面目に深々と頭を下げた。皆が色々言ったが、俺は何も言わずに、ただただ頭を下げ続ける。
結果、皆仕方なくといった感じで了承してくれた。
とりあえず今日で最後とのことで、皆で買い出しに行き、盛大にパーティーをすることに。皆で美味しい料理を食べて酒を飲み、これまでの思い出話に花が咲いて大いに盛り上がった。時が経ち皆に酔いが回った頃、誰かがシャチの話をしだした。
瞬間、俺はドキッとしたが、りんが「懲りずに、また何か悪さしてるかもね」と茶々を入れ、そんなに話が広がらずに済んだ。
俺はなぜシャチの話をされてドキッとしたのか、不思議だった。
『やはり俺にも良心と言うか、そういうものが働いたのだろうか・・・いや違う。もし今シャチのことがバレたら、せっかくここまで来たのに台無しになるのが嫌なんだ。あと少しで自分の人生の使命というか目的を果たせる。俺の最終目的は国会が開かれている最中に国会議事堂を爆破して政治家全員を抹殺することだ。俺が皆の復讐をしたのは、そのための心の準備と心の中にほんのちょっとだけある罪悪感を完全に無くすためだ』
りんがまた、いきなり俺の頭をはたいて言った。
「だからさ、その顔するなや!今度は何?何を考えていたの?」
「あっいや・・・りんに童貞をささげるにはどうすればいいのかと・・・」
俺が冗談と取れないような真面目な表情で言うと、りんは明らかに動揺した表情になって顔を赤らめた。
「な、何を言ってるん・・・」
すると酔っていた、たかこが声を張って言った。
「ここで連くんの告白タ~イム!」
「は?何を言って・・・」
俺が言うと卓三と剣が「え?なになに?どういうこと?」と言って食いついてきたが、そんなことはお構いなしで、たかこがろれつが回らない感じで話を続ける。
「もう男なんだから、いい加減ちゃんと告白しなひゃい!連くんはね、りんちゃんのことが好きなんでひょ!だったら、ちゃんと好きです!付き合ってくだひゃい!と言いなひゃい!」
一瞬場がシンとなり、俺がつぶやく。
「・・・っていうか、俺が言う前に全部言っちゃってるし・・・」
「あっ、いっけねぇ!と言うことで私は寝ちゃいま~す!」
たかこがふらふらと二階にあがっていった。
そして、卓三と剣も気を利かしてか、二階の寝室にあがっていった。
りんと二人きりになり、りんが黙って皆が飲み散らかしたものを片づけ始めた。
俺は何をしゃべっていいのかわからず、だんだんドキドキしてきた。
そして、とりあえずりんに「手伝うわ」と言ってみたが断られたので、とりあえずテレビを付けた。
しかし、いっこうに集中できない。それでも俺が床に体育座りをしてテレビを観ていると、片づけ終えたりんが俺の前にちょこんと座り、俺の脚を広げ、自分も足を広げて俺の腰を足で挟み、おでことおでこをくっつけて来た。
お互いの股もくっついている。
「で?私のことが好きなの?」
俺の心臓は飛び出るほど高鳴り、りんの息が自分の口に入る感じで息も詰まった。
俺は一度頷くのが精一杯で、ほんとに究極にどうしたらいいのかわからなかった。ただ、今までに経験がない程に、体中全てが興奮している。
体中の脈という脈がドンドンと高鳴っている。もちろん俺の股間は、はちきれんばかりな状態。
そこへ、りんがさらに腕を俺の首に回し体を密着させて耳元で囁いた。
「おっきくなってるよ」
そして、りんが少しずつ腰を動かし始めた。そのたびに俺の股間は刺激されてさらに気持ちも体も自分の物ではないような感覚になってくる。
りんの吐息も徐々に激しくなり、それと同時にりんのデニム越しの股間の熱が俺の股間に伝わってきて、興奮と恥ずかしさが絶頂に達し、俺は頭の中が真っ白になった。
そして、りんが再び耳元で囁く。
「このまま、しよっか」
その瞬間、俺は射精した。俺がびくんとするとりんが察知した。
「もしかして・・・出ちゃった?」
俺は苦笑いしながら頷く。
「うそでしょ?」
りんのその声に、俺はものすごい罪悪感にかられた。
「ごめんなさい・・・」
「なんてね。全然いいよ。ベタベタして気持ち悪いだろうから、今日の所はとりあえずシャワー浴びて来な」
「ホントすんません・・・」
「四日後だっけ?それからは、ずっと二人きりだからね。でも、それまではお預けだよ」
俺はシャワーを浴び、熱い湯が逆に俺の頭も体も色んな意味で冷していった。その中で、りんが言った「ずっと二人」と言う言葉が頭から離れない。
ふとりんとの二人きりの生活が凄い魅力的だなと思い始めている自分に気づいた。
別にセックスができるとかそういうことではなく、これからずっと二人で楽しく生きて行くこと自体に、もの凄い魅力を感じていたのだ。
しかし、それは叶わない。なぜなら俺はすでに人を殺しているからだ。でもりんとずっと一緒に居られたら、どんなに幸せかという感情が生まれたのも事実。
俺の頭は混乱した。
シャンプーを付けしゃかりきに頭を擦りシャンプーを洗い流し、体に当たって流れ落ちて排水溝に渦を巻いて吸い込まれる泡と湯を見ているうちに、俺はシャチを殺したからこそ、今のこの感情も生まれたことに気づいた。
『シャチを殺したから、こうして楽しい時間を過ごせて、りんに対する感情も生まれた。シャチを殺していなければ、俺はこの世にいない。それに人は皆死んでいく。どんなに幸せに暮らしていようが、最後は皆家族や大事な人間と別れることが決まっているんだ。だからこそ尊く、周囲の人を大事にするものだいうこともわかる。でも俺は昔から無くなることが決まっているのなら、始めから命なんていらないという考えだったじゃないか。りんとも、今は良いかもしれないが、いずれ別れることが決まっている。だから、やはり俺は俺が決めた道を行く』
シャワーから出る頃には、余計な欲望も全て流れて切った感覚になっていた。
次の日、皆で朝食を取り、そこで俺は本当に急な展開になってしまったことを詫びると共に、気になっていたことを聞いた。
それは急な展開でも卓三は大丈夫にしても、他のメンバーは帰る家があるのかということだ。
皆冗談っぽく嫌味を言ったが、たかこは借金が無くなるために、多分実家に戻ることが許されるだろうということだった。もしそれがダメなら田中と暮らすことも考えるそうだ。
剣は借金もなく元々実家暮らしのために、何も問題ないとのこと。仕事して、いずれは一人暮らしをするそうだ。
りんも元々大久保で一人暮らしをしていたし、四日間とのことで何も問題ないという。
俺が安心してボーっとしていると、昨日のりんと俺とのことが話題になった。俺が童貞を捨てたか捨てないかと言う話題。俺はトギマギしていると、りんがフォローしてくれた。
「実はさ、連ちゃん緊張しちゃってさ、私のこの魅力にも、おっきくならなかったんだよ。まぁ、初めは大体みんなそうじゃない?」
卓三と剣に話を振ると二人は「そんなもんだ。そんなもんだ」と納得してくれた。
俺は若干納いかなかったが、まぁ、よしとした。
すると、りんがせっかく昨日シャワーと共に流した欲望を思い出させるようなことを言った。
「っていうか四日後か。それ以降は連と私だけだからね。いくらでもその気があればチャンスがあるってものさね」
りんが俺の肩を叩く。俺は恥ずかしいのと寂しさを感じながら「そうね」と答えた。
朝食が終わり、皆が帰る準備を始めようとしたとき、俺は金が入った封筒を二つ出して剣とりんの前に置いた。
「これ、今まで手伝ってもらった俺からのお礼というか給料みたいなもの。卓三さんとたかこさんにも渡してあるから、遠慮なく受け取ってよ」
剣とりんが中を確認して、その額に驚いたが、剣は卓三の方を見て確認し、すんなり受け取ってくれた。
しかし、りんは受け取らずに言った。
「私はこういうの受け取らない主義。大体私は四日後に帰ってくるから、今は絶対に受け取らないよ」
俺はもっともだと思って、りんの「受け取らない主義」と言うことにも何も反論せずに封筒をしまった。
そして午前十時過ぎに、みんな出て行った。
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