【再確認と新たな活動】
夜が明けて目が覚めると背中に痛みが走り、体中がベタベタしていた。昨日はシャワーも浴びずに、そのまま床で寝てしまったからだ。まだ皆が来る時間ではなかったので、外に出て走りに行った。
帰ってシャワーを浴び、さっぱりした感じでテレビを付けると朝っぱらから殺人事件のニュースが流れていた。アパートから刺殺された死体が発見されたというものだ。それを見た瞬間に心臓がドキッとした。
たしか、シャチはあの時言った。白骨化して見つかるとスマートではないから発見しやすい場所を選んだと。
俺はあいつの死体を、あの近くの橋から落とした。だからすぐにシャチの死体が見つかるはずだ。しかし、俺がシャチを殺して何日か経つけど、未だにそういったニュースは流れていない。俺の目に触れていないだけでどこかで流れているかもしれないと気になったので、すぐにスマホで調べてみた。やはりどこを探しても見つからない。少々ホッとしたが、なぜだろうと考えてみる。
すると、割とすぐに答えを導き出すことができた。
あいつが死体が発見しやすい場所を選んだと言ったのは、正体がまだわかっていない時だ。つまりシャチが自殺見届け人とわかる前。
しかし、実際は人間としてたちの悪い自殺見届け人で、その場合死体が早く見つかると都合が悪い。死体の身元から警察が自分に辿り着いてしまう可能性が高くなるからだ。
シャチはおそらく死体の見つかりやすい場所ではなく、逆に死体が見つかりにくい場所を選び、俺たちを連れて行ったのだ。
死にゆく俺達に何をどう言おうと死んでしまうのだから関係ない。死体が白骨化しようが醜い状態で発見されようがシャチには関係のない、どうでもいい話なのだ。
改めて『なんて野郎だ』と思いながらテレビを見ていると皆が集まり始めた。
昨日の卓三の話を皆に簡単に説明して、今日のスケジュールを伝える。
俺と卓三は三人の昼休みを狙って会社へ行き、三人と会って来る。そして、最終的に行動するか判断する。
りんと剣には、たかこのターゲットである元旦那の皆川たけしとホストの火咲道也について調べて欲しいと頼み、りんが火咲を、剣が皆川を調べることになった。
たかこには、今日はここに待機してもらい家事やら連絡係など、できることを頼んだ。
俺と卓三は昼前には会社の前に到着し、向かいの通りにあるベンチで三人を待った。
十二時を少し回った頃、会社から三人が出てきた。俺と卓三は後を付けようと立ち上がったが、久々に三人を見たせいか卓三は一瞬立ち竦んだ。しかし、俺が背中をポンと軽く叩くと一つうなずき、俺たちは三人をつけ始めた。
三人は会社から三分ほど歩いたところにあるファミレスに入った。俺たちも間を置いて入り、三人とは五つほど離れた席に座る。俺はすぐに卓三にICレコーダーを渡し、怪しまれないようにカバンに入ったカメラを最大限ズームにセットしていると、卓三が三人の食事の邪魔したくないと言ったので、俺たちは飲み物だけ頼んで待つことにした。
食事が終わり、三人が談笑し始めて、いよいよ卓三が席を立つ。
俺はカメラをスタンバイし、その様子を小さいモニター越しに見る。画面には音声は入ってこないが、四人の動きでなんとなく理解できた。卓三が緊張した様子で三人の目の前に行くと、しばらく三人は無視している感じだった。
そして、何かを話し始め、いきなり溝口が笑いだし、田中、上川の順に笑い始めた。
遠くから見ても、人の心を傷つけることがはっきりとわかるような三人の振る舞いだ。
その後三人は立ち上がり、最後に立ち上がった溝口が卓三の肩を強めに叩いて卓三を突き放し、三人は店から出た。
一人残された卓三は、三人のものと思われる伝票を手にして、その場で茫然としていた。
他の客が卓三を見始めたので、おれはすぐに録画を止めカバンのチャックを閉めて卓三の荷物も持ち、卓三の元へ。呆然としたままの卓三の肩にポンと手をやり、握りしめていた伝票を取って二枚分の金額を支払って二人で外に出た。
俺たちは何もしゃべらずに黙ったまま高円寺に戻った。
アパートに戻るとたかこが掃除をしていた。卓三は部屋に入るなり、すぐさまパソコンの前に座って作業を始める。
俺はたかこに昼食は済ませたかと聞くと、まだとのことだったので三人分何か簡単なものを作ってくれと頼んだ。たかこは帰宅が早すぎる俺たちに対して不思議に思っただろうが、何も聞かずに買い物に出かけた。
りんもそうだが女性のそういう気遣いというか、何かを察知する能力は凄いなと思いつつ、女性は本当に偉大な存在だと思った。
たかこが買い物から帰って作ってくれたのは焼きそば。マヨネーズがたっぷりかかっていて超うまそうだったので卓三に食べようと声を掛ける。しかし、作業に集中しているせいか返事をしなかったので、たかこと二人で先に食べることにした。
たかこはここでも卓三の件には一切触れずに、自分の話をしてきた。
「ねぇねぇ。連くんさ私の、その、なんていうか元旦那の所に行ったんでしょ?一人だった?他に女いなかった?」
俺は一瞬どう答えようかと考えた。ほんの一瞬だったが、たかこは何かを察知してか続けて言った。
「やっぱ居たんだ。どんな人だった?若い?」
俺は女の勘と、その追及の速さについていくのがやっとだ。
「え?あぁ、年齢とかはまだわからない。実際に見てないから。ただ表札に鈴木真理子って書いてあった」
たかこは若干驚いた様子になった。
「そう・・・そうなんだ」
たかこが一つため息をして、話を続けた。
「その鈴木真理子ってさ、私たちの会社の人で・・・っていうか私の後輩でさ。私とすごく仲良くて結婚を誰よりも喜んでくれて、式では歌まで歌ってくれた人だったんだよ・・・細くて綺麗でさ。やっぱ世の男はそういうのに惹かれるのかなぁ・・・」
何で世の中、そんな話ばかりなのかと思いつつ、俺は言った。
「そうか・・・まぁ何度も言うようだけど異性の好みは人それぞれだよ・・・」
「あっ、そうだよね・・・」
しばらく沈黙が続き、そこへ卓三が作業が終わったらしく、俺にUSB手渡しながら言った。
「これでよろしくお願いします・・・」
「了解。っていうか明日朝一で送るようにしていい?」
卓三は黙ってうなずき、たかこにお礼を言って焼きそばを食べ始めた。俺たちはそれぞれが色々な思いを抱え、それぞれが色々考えているといった感じで、それからは言葉を交わさなかった。
昼ご飯が終わると卓三はまたパソコンの前に座り、たかこは掃除洗濯をしてから再び買い物に出かけた。
俺は卓三の復讐を果たすべく、三人の証拠を写真に起こすなどをして準備を進めた。
上川は不倫現場の写真。田中も同様で、たかことホテルに入る時の写真。当たり前だが、たかこの顔は加工する。溝口は例の風俗へ入る写真と、それだけでは弱かったため自宅のパソコン前で自慰行為をしている時の写真も同封。これらの写真を大量に会社へ送る計画だ。
そして、コンビニで買ってきた新聞で文字を切り取って手紙も作成。これは明日送る写真とは同封せずに、違う展開になった時のために用意したものだ。
夕方に差し掛かる頃全てが完成し、卓三に今すぐにでも投函できることを伝えると、卓三は明日の朝一で大丈夫だと答えた。俺が手持無沙汰にしていると、りんと剣が帰ってきた。
たかこも帰ってきて夕飯を準備してくれ、皆で囲みながらの今日の報告会。まずは火咲道也についての報告だ。
りんによると火咲は現在、ナンバーワンホスト兼店長。住まいは麻布にある高級マンションの二七階で、だいぶ稼いでいるとのこと。俺がどうやって住まいまで調べたのか聞くと店のホームページにアクセスして、そこにホスト達のSNSやメアドなどの連絡先があったので火咲に連絡。
嫌いなモデル仲間の写真を送ってうまくやり取りして早めの同伴の約束を取り付け、待ち合わせ場所に行って遠くから監視してあきらめて帰るところを尾行したらしい。
『相変わらず恐ろしい人だ』
次は剣による皆川武志についての報告。
皆川は、現在は会社を辞めて新たにやたらと横文字が多い会社を立ち上げているとのこと。業績は上々らしい。
続いて皆川のプライベートの話に移ろうとしたとき、剣はたかこを気にしている様子で、勘のいいたかこはすぐにそれに気づいた。
「剣くん。大丈夫だよ。気にしてくれてありがたいけど、わかってるから気にしないでありのまま報告していいよ。そうじゃないと連くんも困るでしょ?」
俺は「もっともです」と答えると剣がすべてを話した。
それによると前の会社の女性と付き合っていて、今では一緒に暮らしているとのこと。
しかも、彼女は妊娠しているらしい。妊娠と聞いて、たかこは小さく「えっ?」と言った。
俺はそれを聞き逃さず、剣には調べた経緯については詳しく聞かなかった。剣もそれを察知して、それ以上自ら話すことはしなかった。
最後に卓三の件について、俺がひとこと「卓三さんの件は材料が揃ったので一応明日朝一で投函する予定です」とだけ報告。
卓三の微妙な雰囲気を察し、誰も卓三に何かを言ったり聞いたりすることはなかった。
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