第13話 ごめんね、資格なかった

産婦人科に行った


いつものところ


私は昨日、お風呂に入りながらお腹を撫でた


「もし、お腹にいるのなら、私が守るから」


相手からは中絶を希望されていた


それでも私は、宿った命を殺すことは出来ないと思った


待ち時間に幸せそうな妊婦さんを見て、生まれたての赤ちゃんを見て、涙が止まらなかった


看護師さんに声をかけられるくらいには泣いていた


結果は陰性だった


お腹にはこどもはいなかった


ホッとしたと同時に、今の私には母親になる資格がないと感じた


ごめんね、仮に受精したとしても着床できなかったのかな?とか、色々考えた


私はまだ学生、しかも保育を学んでいる


なのに、行為をしたことは罪だと思った


お母さんになれなかった自分にホッとしたのと同時に、心の成長ができていない自分と向き合わないといけないことに気付かされた


相手は、適当に返事を返してきた


「だから言ったじゃ〜〜ん笑笑」


こんな男と寝た過去の私を殴りたいと思った


相手を殴ったところで、相手は分からないくらいに馬鹿なのだから


私は身体の痛みと微熱が治らない


きっとそれは、神様からの罰なのだと思った


男には分からない女の苦しみがある、そう思った


ごめんね、産まれてくるはずだった命の君にお母さんになってあげられなくて


私を選んでくれる時が来るまで、私は自分のできることを精一杯やるから


陰性とはいえ、流産だったらしい


ごめんね


ごめんね


お母さん、造影CT撮らなきゃ良かったね


ごめんね


お母さん、腎盂腎炎ならなきゃよかったのにね


私は、君に何がしてあげられたのかな?


ちゃんと産んであげられなくて、お母さん失格だね


ごめんね


ごめんね


お腹の中、過ごしにくかったよね


短い日にちだったけど、君がお腹にいてくれたことは、私にとっては宝物だったって思う


おなかのなかにいてくれたきみへ

てんごくにいったら、おじいちゃんにおはなししてみてね

おかあさんのおじいちゃんはすごくりっぱでやさしくて、さいごまでいきることをあきらめなかったひと

おかあさんはきみにあえなくてすごくすごくかなしいよ

でも、きみが、おなかにすこしでもいてくれたことがおかあさんはうれしかったよ

ありがとう

だいすきだよ

きみのことわすれないからね

なまえをつけてあげるのはじぶんかってだから、なまえのおくりものはできないけれど、きょうがきみがいたあかしのひにするよ

わたしのこと、わすれてもいいから

たくさんたくさんしあわせになってね

だいすきだよ

もし、またおかあさんのところにきてくれるなら、まってるからね

おかあさんはきみのことわすれない

だいすきだよ


今日という日を私は忘れない

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