第4話 需要と供給は一致するのか?

 端的に言って、親父が職を失い、家のランクがグレードダウンした。


「ちぇ、あー、金がねえのはひもじいモンだ……な」


 空に向かって吐いたとこで、何も変わりはしない。


「親父も経済学者なら財テクぐらい……まあ、ケイジアンにそれは酷と言うものか」


 財テクって金融工学とかだしな。


「そういや!俺となりに挨拶してなかったよ!」


 思い立ったが吉日、挨拶したろ。て土産は……親父の著書『ケインズとアダム・スミスとマルクス』で良いや、経済学史の入門にもなるし、数式ないし、とにかく大学教授が隣なんて名誉やろ。


 ピンポーン!チャイムを鳴らす。


「はーい!」


 若い女の声……これは日常ロマンポルノの匂い。


「どうもー、あ、今日越してきたお隣さん?ちょっとこんな若い男の子いるの~」


 ふむ……良い薄着だ。正直さっきの日常ロマンポルノ云々はちょっとした冗談だか、これは中々。


 昨今における、隣人付き合いの薄さに対する、ある種の憧憬が、日常ロマンポルノとして凝固したのだと思うが、まあ確かに知り合いは多いに越したことはない。


「あ、そうです。これお土産です」


 と言って親父の本を差し出すと


 ガッと腕を捕まれ部屋に巻き込まれる。


「おいおい、おいおい!?俺はそう言う急な展開は……まあ、いいや」


 実は俺は柔術を会得しており、こんないかにも女子大学生な感じの女に負けるいわれはない!


 俺は腕を振りほど……けない!


 こいつ、中々の使い手。参った!


「参った!参った!話し合おうぜ……とにかく何が目的だ」


 俺の言に


「それ、斎藤啓さいとうけい先生のでしょ、私が先生の不倶戴天の敵と知っての狼藉?」


 親父ぃ……。こんな若い女と何があったんだ?


「まあ、これは親父のだ、親父は結構人が良いぞ、そんな不倶戴天の敵だなどと、そんなことはない」


 女は


「私の名前は川島愛かわしまあい、あなたのお父さんに大学を追放された者よ」


 と言った。


「安心しろ、親父も大学を追放された……あそこは親父関係なくそう言う大学なんだ」


 とにかく、何とかする!


「何言ってるの今もいるじゃない?」 


 愛はキョトンとそう言う。


「日本の方ね……親父に」


 とにかく、今この場から逃れるため、ハッタリでもなんでも良いから逃げるぜ!


「そこでお父さんにお願いして、なんとか大学に復帰させてと、正確には大学院だけど」


「わかった、わかった、OK。掛け合うさ」


 俺は解放され親父つまり斎藤啓の帰りを待った。


「川島愛?あれはやる気が無さすぎる!正直に言って専門が金融工学でブラック=ショールズ方程式の計算も出来ないようじゃダメだ!お前も知ってるだろオプションがどうこうのヤツだ」


 啓が憤然と言い放つ


「隣がソレ」


「?ソレって何?」


「イヤだから、その等の本人が川島愛」


「そうか、院の復帰は無理だか、まあ職の案内ぐらいはしてやるか……」


 と言って親父は愛の部屋に向かう。


 後日。


「どうもー担任の川島愛です、もと修士課程のエリートだけど大学院を追放されました、社会を教えますがやる気はないのでヨロー」


 教室には俺一人。


「まじで誰もいない」


 愛はニヤけた後スマホ人間になってしまった。

 


 

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