76 キングベヒーモス
キングベヒーモスの咆哮で戦いが始まった。
『ノービスの本気』でステータスを底上げしたネイビスはキングベヒーモスに斬りかかる。ネイビスの上段の構えからの一撃をキングベヒーモスはサイドステップで躱し、反撃として前脚をネイビスめがけて振り下ろす。
「くそ、速いな」
キングベヒーモスの身体能力にネイビスは驚愕する。ネイビスはキングベヒーモスの攻撃を寸前で回避すると、今度は魔法スキルを唱えた。
「『トランス』!『プチメテオ』!」
補助魔法スキル『トランス』で魔法スキルの効果を高めてから、ネイビスは『プチメテオ』を放った。キングベヒーモスは上空に生成された隕石群に気付くことはなく、そのまま被弾する。煙が舞う中、ネイビス達は様子を伺う。
「やった?」
「そうだといいですが……」
ルナがネイビスに訊くが、ネイビスはあまり手応えを得ていなかった。案の定、砂塵の中から地響きが聞こえる。キングベヒーモスは依然として生きていた。
「ルナさん」
「分かってるわ。『フリーズ』!」
今度はルナが大蒼魔導士の最終スキル『フリーズ』を放つ。ネイビスは被弾しないようにルナから距離を置いた。
だが、痛いほどに凍てつく冷気の中をキングベヒーモスが一歩、また一歩と凍りつく脚を地面から引き剥がしながら駆け出して、そのままルナに向かって突進した。
ルナは必死に回避するが、キングベヒーモスの尻尾がルナに当たって、ルナは地面に転がり、そのまま倒れ伏した。
「ルナさん!」
「私は平気よ……。それより、戦って!」
ルナはなんとか立ち上がりながらネイビスに応える。
「分かりました。『マジックミサイル』!」
ネイビスはキングベヒーモス目がけて遠距離魔法スキル『マジックミサイル』を放つ。ホーミング性能の『マジックミサイル』はキングベヒーモスの背中に命中するが、致命傷は与えられない。
「雷鳴剣で戦うしかないな……」
自然とネイビスの剣を握る力が増す。
「行くぞ!」
ネイビスはキングベヒーモスに向かって駆け出した。キングベヒーモスの前脚が迫るも、ネイビスは咄嗟に後ろにステップを入れることで躱し、反撃の一撃を入れる。
「私も負けてられないわね……。『アイスランス』!」
ルナが放った氷の槍がキングベヒーモスの頭に当たる。キングベヒーモスは怯み、ネイビスはその隙に一撃、二撃、三撃と雷鳴剣でキングベヒーモスの右前脚を刻む。
キングベヒーモスは攻撃に怯むと咄嗟にジャンプした。ネイビスはすかさず距離を取る。キングベヒーモスは空高く浮遊し、そして轟音とともに着地すると砂塵が舞い、ネイビス達の視界を邪魔した。
その砂煙の中から漆黒の爪がネイビス目がけて迫るも、ネイビスは雷鳴剣でキングベヒーモスの爪をパリィする。
「喰らえ、カウンター!」
ネイビスは再度カウンターを決める。キングベヒーモスは怯んで後退りをし、ネイビスがそれを追う。
「ネイビス、何か来るわ!」
「はい?」
キングベヒーモスは再度咆哮をした。すると、周囲の景色が歪み始める。
「アリエルの言ってたブラックホールか!?」
ネイビスはキングベヒーモスへと吸い寄せられた。正確にはキングベヒーモスの角に生成された黒球に引き寄せられる。
ネイビスは地を踏みしめて、耐え凌ぐ。
「あれに引き込まれたらヤバそうだな」
黒球はどこまでも暗く、底の見えない闇だった。ネイビスは引き込まれたらと想像してゾッとする。
ルナ、レナ、ネイビスは三者三様にブラックホールの引力に耐え忍ぶ。
「私、もう持たないわ!」
ルナがもう限界を迎えそうだった。ネイビスはルナを支えるために踏ん張って移動する。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう」
ネイビスはルナを支えながら引力に逆らって移動する。その時ネイビスはあることを思いつく。今『プチメテオ』を使ったらどうなるんだろう、と。
「やってみるか。『プチメテオ』!」
ネイビスは残るMPを使って『プチメテオ』を放つ。すると生成された隕石群はキングベヒーモスの作るブラックホールに吸い寄せられた。
黒球は隕石をどんどん吸い込み、増々大きくなる。砂塵を吸い込み、岩を吸い込み、ブラックホールは成長した。
「何やってるのよ、ネイビス!」
ルナが叫ぶ。だが、時は既に遅い。ブラックホールは地面を飲み込み始め、キングベヒーモスさえも手に負えない様子だった。
キングベヒーモスは自ら作ったブラックホールに吸い込まれそうになっている。だが、ネイビスとルナは既に距離をとっていて、ブラックホールの影響範囲の外側にいた。ネイビス達はブラックホールに吸い込まれていく何もかも、地面も空気も炎も、そしてキングベヒーモスをも眺める。
ブラックホールは完全にキングベヒーモスを飲み込んだ。ある一定の大きさに達すると、ブラックホールは一気に収縮を始め、見えないほど小さな点となって虚空に消える。
「な!我らのキングベヒーモスが!」
キングベヒーモスが滅すると再びパレスの声が響いた。ネイビスは思いつきが生んだあっけない結果に心のなかで「キングベヒーモス、欠陥品じゃねぇか」とツッコミを入れる。
「何故だ……。グレイン、すまない」
パレスの悲痛な声を聞いてからネイビスは空にむけて語りかける。
「パレスさん?あなた、死んだはずではないのですか?」
「グレインよ、どうか我を許せ……」
パレスはネイビスの声など聞こえていないようだった。ネイビスは再度語りかける。
「あのー。パレスさん?」
「ん?なんだ、お前は我を知っているのか?」
パレスがそう言うと、見えない風のような何かがネイビスの前に収束し始め、人の体が生成され始めた。現れたのは尊大な態度をした黒髪の青年だった。
「ではお前に訊く。我はなんだ?」
「十二天魔で空間を司る理ですよね?」
「ほう。よく知っていおるな。で、お前は我を天使と見るか、悪魔と見るか?」
このときには戦線離脱していたルナもネイビス達のもとまで来ていて、三人がパレスに向き合う形となった。ルナとレナはネイビスとパレスの会話を神妙な面持ちで聞いていた。
「天使と悪魔?」
ネイビスが聞き返すと、パレスは頷いて説明を始めた。
「左様。十二天魔とはもとは皆天使だったのだよ。だが、ある時二つに別れた。人々は我らを悪魔と呼んだ。我は天使をやめた覚えはないのだがな」
「悪魔……」
ネイビスはぼそりと呟く。
「まぁいい。お前らはキングベヒーモスを倒し、試練を乗り越えたことに変わりはない。古の盟約に誓ってお前らに資格を与えよう」
パレスがそう言うと、ネイビス達の体がほんのりと紫の光で包まれた
「なにこれ?」
「恐らく、水門を潜る条件をクリアしたということだろう」
ルナが疑問をこぼすとネイビスが考察を語る。それを聞いてパレスは頷いて応えた。
「その通り。これでお前らは魔王に挑む資格を得た。最後に一つ。お前らに感謝を伝えたい。これで我もあいつのもとに行ける。キングベヒーモスを倒されたのは悔しかったが、いつかこのときが来ることは分かっていた」
「あいつ、とは?」
「我が盟友、グレインのことだ。古き戦いで死んでしまったがな。使命を終えた我も、還るとしよう」
「待て。まだ訊きたいことが……」
ネイビスの言葉も虚しく、パレスは再び見えない風となって空に溶け出した。
「訊きたいことって?」
命が煌めくような輝きとともにパレスが跡形もなく消えてなくなると、レナが徐にネイビスに尋ねた。
「グレインが誰なのかと魔王との関係かな。あの感じだと魔王と少なからず関わりはありそうだし」
「確かに気になるわね」
「アリエル様ならなにか知ってるかな」
「帰ったら訊いて見るか」
ネイビス達は生成されたゲートを見据えて、疲れた一歩を踏み出した。
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