72 地下空間

 ネイビスはルナとレナとともにアリエルに案内されるままに王城の地下にある地下牢の間を通り抜けて、地下へと続く隠し扉の前までやってきた。


「こんな場所があったのね」


 レナが感嘆の声を漏らす。構わずにアリエルは隠し扉を開けた。中にはさらに地下へと続く階段が続いていた。


「地下にこんな空間があったなんて」

「そうだね……」


 階段を下ると開けた地下空間に出た。ネイビス、そしてルナとレナは王城の下に広がる広大な地下空間に驚いた。半球状の地下空間の外縁にある階段を四人は下りて行く。


「どうやってできたのかしら?」

「もしかして人為的に造られた?」

「だとしたらいつからあるのかな?」

「わからない……」

「もしかして神代から?」

「だとしたら王城の方が後に建てられた?」


 二人は終始考察と問答を繰り返す。一方ネイビスは二人とはうまく話せないでいた。それは過去のトラウマもあったが、銀髪の双子が二人の世界を作っているからという方が大きかった。


「ボクが話し相手になってあげるよ?」


 アリエルが微笑みを浮かべてネイビスにそう言った。


「ありがとうございます。では、Sランクダンジョンのことを訊いてもいいですか?」

「うん。構わないよ」


 ネイビスがアリエルの提案に乗るとアリエルは喜んで頷いた。ネイビスは早速気になっていた質問をする。


「どうして国はSランクダンジョンのことを隠しているのでしょうか?」


 ネイビスがそう訊くとアリエルは人差し指と中指を立てて話す。


「それは二つ理由があってね、一つは君も知ってるはずだよ?」

「そもそもAランクダンジョンをクリアした人が措置対象になるから……ですか?」


 ネイビスはその話をしながら、恐る恐る後方で問答を繰り返す双子をチラッと見る。どうやらルナとレナにはネイビスの話は聞こえていなかったようだ。ネイビスは一安心する。


「御名答。ランダム教の方針でね。力を持つ者は限られるべきだって」

「ある意味管理社会ですよね」

「そう。その通りだけど、おかげでこの国の歴史は何千年と続いているんだよ」

「で、二つ目の理由はなんですか?」


 ネイビスが再び質問すると、アリエルは地下空間を見渡しながら答える。


「この空間、人間に作れると思うかな?」


 アリエルにつられてネイビスも地下空間を見渡す。地下空間は半球状のドームとなっていて、外縁を階段が下まで続いていた。ネイビスは確かにこの空間を人が作れるとは思わなかった。


「じゃあ誰が?」

「十二天魔の一人、空間を司るパレス」

「十二天魔ですか」

「そう。それが二つ目の理由」


 ネイビスはすんなりと話を受け入れたが、話を聞いていたルナとレナが反応を示した。


「十二天魔?」

「神代に争った天使と悪魔のことよね?」


 ルナとレナの提示した疑問にアリエルは頷いて応えた。


「何故アリエル様が十二天魔のことを知っているのかしら?」

「前から色々と疑問に思ってましたが、この際訊こうと思います。アリエル様は何者なんですか?もしかして転生者なのですか?」


 ルナとレナがアリエルに迫る。アリエルは不敵な笑みを浮かべて応えた。


「二人には言ってなかったっけ。ボク、十二天魔なんだ」


 ルナとレナは「え!」と驚きの声を上げ、一方ネイビスはやはりなと納得する。アリエルはネイビスの前で自身の口から己が十二天魔であるとは言ったことがなかったが、ネイビスはツァーネとのやり取りからそうであると察していた。ルナとレナの驚く反応を見ると、アリエルは自身の唇に人差し指を当てて話した。


「あの爺さんには内緒だよ?神について根掘り葉掘り質問攻めを食らうのは嫌だからね」

「レトナ法王のことですか?」

「そう。ボク、あの人苦手なんだ」

「そうなんですね。分かります」


 レナがアリエルに同意した。どうやらレトナ法王は女性陣からは不人気のようだ。そんな二人を見て苦笑いしながら、ルナが徐に手を挙げた。


「あの、アリエル様。質問いいですか?」

「いいよ、ルナちゃん」

「その、空間を司るパレスって今はどこにいるのですか?」

「いや、彼はもう死んでいるはず」


アリエルの言葉を聞いてネイビスはある疑問を抱き、アリエルに質問する。


「十二天魔は不死なのでは?」

「いや、正確には十二天魔は不死ではないよ。天使で居続けることを選んだ、堕天しなかった者だけが不死なんだ。だけど、不死とは言っても外的要因で死ぬことはあるけどね」

「だとしたら、パレスが死んだのは神代の争いで、ですか?」


今度はレナがアリエルに尋ねた。


「そうだね。君たちが神代と呼ぶ時代が終わる頃には既に、十二天魔で生きていたのは私以外は二人だけだと思う」


 アリエルが「思う」と言って断定しなかったことにネイビスは少なからずの疑問を抱いた。


「ツァーネとあと一人は?」


 ネイビスが訊くとアリエルはいたずらな笑みを浮かべてネイビスを見返した。


「ヒントはもう与えてるよ」

「ヒント……」

「まぁ、いずれ知る時がくるよ。むしろ、そうじゃないとボクが困っちゃう」


 アリエルは時々意味のわからないことを言う。ネイビスはアリエルの言葉が腑に落ちなかったが、ネイビスが心に抱いた疑問は続くアリエルの言葉で打ち消された。


「着いたよ。ここがSランクダンジョン『ベヒーモスの谷』だよ」


 階段を下りた先には周囲をほんのりと光る透明な水に囲まれた陸地があり、その中央に青白く光り輝くゲートがあった。


 ネイビスは緊張感を噛みしめながら、階段の最後の一段を下りた。

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