56 秘策と条件

「本当なのか!?本当に雷め……」


 ルートが大声で「雷鳴剣」の名を出そうとしたところをネイビスが手で口をふさぎ、物理的に黙らせた。


「これは極秘です。他言無用でお願いします」

「お、おう。分かったよ」


 ルートは反省して頷く。ネイビスはルートが理解したのを確認すると、ルナとレナにも再度確認する。


「お二人もよろしくお願いしますね?」

「私たちはルートみたいに口は軽くないから平気よ」

「私たちはルートみたいに軽くないから平気よ」

「は、はぁ」


 ネイビスは独特な雰囲気の双子の姉妹に少し気後れするも、説明を続けた。ネイビスが提案したのは雷鳴剣の貸出だった。雷鳴剣は伝説の勇者の剣であるだけに、勇者との相性が良い。というのも、勇者が雷鳴剣を手にすると、エクストラスキル『落雷』というものが使えるようになるのだ。ゲームではそうだったので、現実世界でもそうに違いないとネイビスは判断していた。だがエクストラスキル『落雷』に関しては確信はないため、そのことは伏せ、単に攻撃力の高さと雷属性の優位性について話していった。


「雷属性、強すぎるな。唯一、賢者が扱える属性なだけはあるな」

「そうですね。まぁ、なんたって偉大なる錬金術士が作ったものですから」

「それにしても、朱、蒼、翠全てに対してダメージアップか」


 ルートは雷鳴剣の雷属性に感嘆していた。雷属性を扱えるのは今のところ賢者だけしかいないことに加え、雷属性の強さにも驚きを隠せないでいた。


 基本的に属性は無、朱、蒼、翠、雷、光、闇、特殊の八つに分類され、それぞれの属性の攻撃によるダメージは以下のようになる。



 1同属性への攻撃はダメージ半減(無属性、特殊属性を除く)

 2無属性の攻撃は全ての属性に対して1倍のダメージ

 3朱属性の攻撃は一律1.25倍(朱属性への攻撃は半減)

 4蒼属性の攻撃は一律1.25倍(蒼属性への攻撃は半減)

 5翠属性の攻撃は一律1.25倍(翠属性への攻撃は半減)

 6雷属性の攻撃は一律1.5倍のダメージ(雷属性への攻撃は半減)

 7光属性の攻撃は一律1.5倍のダメージ(光属性への攻撃は半減、闇属性に対して2倍)

 8闇属性の攻撃は一律1.5倍のダメージ(闇属性への攻撃は半減、光属性に対して2倍)

 9特殊属性(睡眠、麻痺、毒など)の攻撃は全ての属性に対して1倍のダメージ



 雷属性は賢者のスキルや拳闘士系統の第4スキルで登場し、光属性はビエラがすでに使っている『ホーリー』のように巫女系統の第4スキルで登場する。そして闇属性はネイビスが狙っているある隠しジョブで使える属性だった。特殊属性に関しては、特殊属性のスキルを持つ職業はなく、武器への付与がメインになる。


「ざっとこんなところかな。何か質問は?」


 ネイビスが一通り説明し終えると、レナが手を上げた。


「その剣を貸してくれるって話だと思うのだけど、そんなにすごい剣をただで貸してもらえるわけないわよね?なら、何が望みか聞いてもいいかな?」


 レナの質問にネイビスはほくそ笑んで答える。


「いい質問です。俺たちが雷鳴剣をルートさんに貸す条件は、ずばり、『絶対零度』のみなさんがダンジョン周回をして今よりもレベルを上げることです」

「「「ダンジョン周回?」」」


 ネイビスの言葉にルナ、レナ、ルートは首を傾げて訊く。仕方なくネイビスはダンジョン周回とは何たるかを説明した。


「ほう。それは興味深いな」

「ええ。三人もダンジョン周回すれば、人類最高到達レベルである67レベルを越えられますよ!」

「もうネイビスくんが更新したけどね」


 ルートが感嘆のため息を呟くと、ネイビスは三人を激励したが、その粗をビエラがつついた。


「そうだった。まぁ、細かいことは気にしないでください」

「結構大事なことじゃないかしら?」


 誤魔化そうとしたネイビスを今度はイリスが嗜める。


「なんか、二人ともやたら俺に厳しくない?」


 ネイビスがイリスとビエラに訊くと二人は冷めた表情で答えた。


「そうかしら。かわいい恋人が二人もいるのにも関わらず、他の女に色目を使う愚か者に対しては妥当な対応じゃないかしら」

「そうだよ。ネイビスくん、レナさんとルナさんのこと意識しすぎだよ」


 イリスとビエラが言うように、ネイビスが双子のルナとレナに意識を向けていたのは事実だった。だが、それにはちゃんとした理由があったのだ。ネイビスは以前にもレナとルナの二人に会ったことがある気がしていた。もちろん、前にルートに会った際に視界のどこかで見たという可能性もあったが、それとは違う既視感を覚えていた。


「ネイビスくん。君、女たらしなのかい?」

「あなたにだけは言われたくなかったですが、そうなのかもしれませんね」


 だが、確かに二人に見惚れていた節もあったため、ネイビスは自身が女たらしであることを認めた。


「ネイビスくんは、ルナさんやレナさん、アリエルさんみたいに、年上の女性の方が好きなの?」


 ビエラがネイビスに質問した。ネイビスが慌てて違うと答えようとすると、ルートが突如として大声を上げて、ネイビスの両肩を掴んで問いただす。


「アリエル様にお会いしたのか!?」

「うん、そうだけど……」

「そ、そうか。何か言っていなかったか?」

「確か、もっと強くなって欲しいと言われましたね」

「僕については何か言ってなかったかい?」

「いや、それは、覚えてませんね」

「そうか……」


 ネイビスの返事を聞くとルートは明らかにがっかりした態度を見せた。ルートの態度の変わりように、ネイビスとビエラ、イリスは苦笑いを浮かべる。一方でルナとレナはまたかと顔をしかめた。


「ルートさん、アリエルさんと何かあったんですか?」


 ビエラが隣に座るルナに耳打ちで訊くと、ルナはビエラに同じく耳打ちで返す。


「ご執心なのよ」

「へぇ」


 ビエラは意外なルートの一面に驚きを隠せないでいた。内緒話をする二人にルートが水を指した。


「そこ、何話してるのかな?」

「何でもないわよ」


 ルナが素っ気なく答えるとルートはすかさず尋ねる。


「いや、僕について話してたでしょ」

「まぁね。それより今はダンジョン周回の話でしょ?」

「何か怪しいな……。うん、まぁ、ビエラちゃんの可愛さに免じて訊かないでおくことにするよ」


 ルートは諦めて、ビエラに向けてウインクをした。ビエラはそれに気づかず、ちょうどルートのウインクが空振りしたタイミングでネイビス達が頼んだ夕飯が運ばれてきた。


 それから彼らは夕飯を食べながら談笑し、明日の朝一緒に『ドラゴンの巣』に行くことを約束してから、各々の部屋へと分かれた。


 ネイビス達は明日のAランクダンジョン攻略へ向けて準備し、高まる興奮の中熱い夜を過ごした。

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