33 雨降って地固まる

 ネイビス達は一日かけて大雪山を下山して『湯煙の宿』に来ていた。


「あんだら無事だっだのかい。良がっだ。心配しだんだよ」


 ネイビス達がドアを開けて中に入ると受付の老婆がそう声をかけた。


「心配かけてごめんなさい」


 ネイビスが代表して謝ると老婆は手をひらひらさせて応えた。


「良いんだよ。無事帰って来だんだからねぇ。特別に今夜は無料で泊めちゃる」

「良いんですか?」


 ビエラの問いに老婆は「ああ」と頷いた。三人は部屋の鍵を受け取って部屋へと向かう。そのまま三人は服を着替えることも忘れて倒れるようにベッドに横になって寝た。『ヒール』で疲労は回復するものの、三人とも精神的に相当疲れが溜まっていたのだ。

 翌朝三人は早く寝た分早起きして、温泉を貸切にして朝風呂に入っていた。


「やっぱり温泉は最高ね」

「生き返るなぁ」

「うんうん」


 湯煙の宿の露天風呂からは大雪山を一望できる。壮大な大雪山を見ながらイリスが感慨深そうに言う。


「あの山に登ったのよね」

「そうだな」

「ねぇ、ネイビス君。次はどこに行くの?」


 ビエラの問いにネイビスはしばし考えてから答える。


「次はドラゴンズボルケーノの近くの町ロッカだな」

「確か大陸の東端だったわよね」

「そうだ。一回ダンジョン都市イカルを経由してロッカに向かう予定だ」

「またダンジョン攻略するの?」

「せっかくだしそうするか」

「前回攻略したのがEランクダンジョンの『カエル沼』だから、次はDランクダンジョンの『ゴブリンの巣窟』よね?」

「そうだな。ゴブリンはなかなか厄介だぞ」

「私ゴブリン苦手かも」

「まぁ、Dランクダンジョンは今の俺達の敵ではないな」


 その後、ゆったりと朝風呂を満喫した三人は部屋に戻って旅立ちの準備をする。


「この宿とももうお別れか……」

「色々あったよね」

「そうだな。だが、出会いがあれば別れもある。仕方ないさ」

「それもそうね。行きましょうか」

「うん」


 三人は老婆に見送られながら『湯煙の宿』を後にする。


「まだ来るんだよー」

「「「はーい!」」」


 三人は老婆に手を振って応えた。そしてフューズの町へと向かう。

 日暮れごろ三人はフューズの町へと辿り着き、飛空艇発着場に翌朝のイカル行きの便の出発時刻を確認しに行った。


「朝七時か。随分と早いな」

「この発着場の近くの宿に泊まりましょう」

「私もそれが良いと思う」


 三人は発着場の目と鼻の先にある宿屋に泊まった。いつものようにベッドを一つに繋げて三人で寝転がっているとビエラが二人に尋ねた。


「ねぇ、ネイビス君とイリスちゃん。正直に話して欲しいんだけどね。私に何か隠してることあるでしょ?」


 ビエラの問いにイリスとネイビスは大雪山に登る前日に部屋で二人きりの時にしたことを思い出していた。


「い、いや。何もないぞ?」

「そ、そうよ。何もないわよ」

「嘘!今だって言葉つっかえてたもん!」


 ビエラは頬を膨らませて怒る。


「確かに隠し事はあるが、それはビエラには話せない」

「なんでよ!イリスちゃんは?」

「私もビエラには話したくはないわね」


 二人の言葉を聞くとビエラはしばらく黙りこくって、しくしくと泣き始めた。


「なんで?どうして私だけ仲間外れにするの?」

「ビエラ、泣かないで」

「二人が泣かせてるんだからね!」


 否定できないネイビスとイリスは目配せをして頷きあった。


「分かったビエラ。全部話すから」

「ビエラ。今まで隠しててごめんなさい。全部話すから」

「教えてくれるの?」

「ああ」


 それからネイビスとイリスはビエラにアレやソレやナニの存在を教えていった。そして既にイリスとネイビスがソレやナニをビエラに内緒でしていた事も話した。


「じゃあ、私もしたい。イリスちゃんがしたのと同じことネイビス君としたい!」


 そう言ってビエラはネイビスに抱きついたまま離れようとしない。


「参ったなー」

「ビエラがするなら私もするわ」

「イリスもかよ」


 表向きはそっけない態度のネイビスだが、本心では「イエス!」と喜んでいた。


「子供ができちゃうようなことはなしだぞ」

「分かってるよ」

「当たり前でしょ」


 その後三人は長く熱い夜を過ごした。

 行為が終わった後、三人は寝静まった夜の暗闇の中で話していた。


「ねぇ、二人とも。これからはさ。この三人の中で隠し事は無しにしない?」

「ああ。分かった」

「いいわ。私達はもう家族みたいなものだしね」


 ビエラの提案にネイビスとイリスが同意した。それを確認するとビエラはイリスに向かって話し始める。


「ならこの話もしないとね。イリスちゃん。前にハルオンの町でイリスちゃんが馬車に酔って早く寝たときね、実はネイビス君と二人で夜のデートに行ったの。二人でキスをしたり手を繋いで歩いたり、恋人の鐘を鳴らしたりしたの」

「そんなことがあったのね。やっぱり何かあったんじゃないかとは思ってたわ」

「うん。それでね。その時ネイビス君に私達の子どもの頃の夢を話しちゃったの」


 その言葉にイリスが赤面して聞き返す。


「子どもの頃の夢ってもしかしてあの話したの?」

「うん。御伽噺の勇者みたいな男の人と三人で結婚して世界を旅するって話」

「あーあ!恥ずかし!」


 イリスは恥ずかしさを誤魔化すため手をバタバタさせて扇いでいる。


「私思ったの。ネイビス君ってその御伽噺の勇者みたいだなって」

「そうか?」

「そうだよ!イリスちゃんもそう思うよね?」

「確かにネイビスは御伽噺の勇者みたいだと思うわ。色んなこと知ってるし、単純には測れないような強さも持ってるし……」

「それは、ありがとう」


 そこでビエラが手をパンと叩いた。ネイビスとイリスがビエラを注視するとビエラが宣言を始めた。


「とにかく!私達三人の中で隠し事は無し!ネイビス君は私達二人を同じだけ愛して、エッチも三人でする!抜け駆けは無し!これでいい?」

「異論はないぞ」

「分かったわ」

「決まりだね!」


 その後三人は寝る前の長めのキスをしてから、ネイビスを真ん中にして抱き合ってベッドに横になった。ネイビスは両脇にイリスとビエラを抱えながら思う。これからは二人を平等に愛していこうと。ネイビスは寝ている二人の額に軽くキスをしてから眠りにつくのだった。

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