02 旅立ち ✳︎ステータス記載

 卒業式の次の日、ネイビスとビエラとイリスは俗に言う始まりの町の広場にある噴水の前に集合していた。


「ねぇ、ネイビス。何でわざわざここに集合したのよ?どうせなら門の前とかでよかったじゃない」


 イリスがネイビスに不満げに訊く。対してネイビスは「何だ、そんなことか」と言ってイリスの方を向き、下を指差した。


「この場所が旅のスタート地点って決まっているからだ!」

「すたーとちてん?」


 胸を張って堂々と言い放つネイビスの言葉が理解できなかったのか、ビエラが聞き返す。


「あぁ。まぁ、二人に話しても理解できないと思うがな」

「何それ、なんかムカつくわね」

「こだわりってこと?」

「それで合ってるぞビエラ」

「それなら早く行きましょう。もう同期の子達はとっくに旅立ってるわよ」


 イリスの言葉にネイビスは顔をしかめて尋ねる。


「何でそのことをイリスが知ってるんだ?」

「え、掲示板見てないの?」

「何それ。掲示板?」


 ネイビスが首をかしげていると、イリスはポケットから漆黒のカードを取り出してネイビスに見せる。


「これ。昨日の卒業式の時にもらったでしょ?卒業証明書にもなるんだから大切にしなさい!」

「これを見せれば安くなる店もあるって言ってた……」


 イリスとビエラの説明を受けてやっとネイビスはそのカードの存在を思い出した。


「あぁ、あれか。そう言えばもらったなぁー」

「あなた、もしかしなくても失くしたりしてないわよね?」


 ネイビスはポケットの中やカバンの中に手を突っ込んで調べて一つの真実に辿り着いた。


「あーっと。たぶん失くしたっぽい」

「嘘でしょ!?」


 ネイビスの返答にイリスが驚き呆れて大声を出す。ビエラが「声大きいよぅ」と周りの視線が集まるのを気にしていた。


「このマギカードは再発行できないとても大切なものなの!本人しか使えないようだから悪用はされないだろうけど魔王討伐には必要なアイテムなの!」

「マギカード?そんなアイテム聞いたことないし、なくても普通にクリアできたけどなぁ」

「ええ?何言ってるのかよく分からないけど、とにかくマギカードに搭載されている掲示板機能は旅の情報共有に欠かせないの。本当にあなたおかしいわ」

「まぁまぁ、誰でも失敗はあるよ。だからイリスちゃん。落ち着いて」


 ビエラがイリスをなだめる。恥ずかしがり屋のビエラはこれ以上注目されるのが嫌だった。しかも、こちらを見る人の中には勇者学院の卒業生もいて、なおさら恥ずかしかった。


「そうだそうだー!俺はマギカードなんかなくても魔王討伐してみせる」

「まぁ、いいわ。それよりも早く行きましょう。今この瞬間もライバルと差ができてしまうわ」

「そ、そうだね。ネイビス君。どこに行くの?」


 このパーティーのリーダーはネイビスになっていた。イリスとネイビスが立候補してじゃんけんで決めたのだった。


「北の森かな」


 ネイビスの言葉を聞いて、二人は驚く。


「え、いきなり北に行くの?」

「掲示板によると、みんなは東か南に行ってるわね。西も少しいるみたいだけど、北に行った卒業生は一人もいないわ」

「北に行くほど魔物って強くなるんじゃ……」


 心配するイリスとビエラを見てネイビスは笑った。


「強いからこそ挑む価値があるんだよ」

「はい?ちょっといいネイビス。あなた自殺志願者なの?」

「違う違う。それに次の町に行くなら北の森を突き抜けるルートが一番の近道だし」

「あの勇者パーティーでさえ北の森は避けたのよ?私たちが行っても無駄死にするだけだわ。第一、あなたレベルはいくつなの?」


 そう言われてネイビスは自身のステータスを確認した。


 名前:ネイビス

 年齢:17

 性別:男

 職業:ノービスLv.9

 HP:30/30

 MP:30/30

 STR:10

 VIT:10

 INT:10

 RES:10

 AGI:10

 DEX:10

 LUK:10

 スキル:なし


 そう言えばスタート時のレベルは1から9のランダムだったことをネイビスは思い出す。ここにもランダム要素を入れてくるあたり、やっぱり『ランダム勇者』だなぁとしみじみするネイビスであった。


「レベル9だけど」

「なに!見せてよ。……本当だ。負けた」


 イリスはネイビスの前に表示されているステータスウィンドウを覗き込むとがっくりと落ち込んだ。


「イリスは何レベル?」

「6よ6。低くて悪かったわね」

「別に悪いとは言ってないけど」


 そんな二人を見てビエラがもじもじとしていた。


「あのー。私、実はレベル2なんです……」


 か細い声でそう言うビエラ。その表情はとても申し訳なさそうだった。まぁ、こればかりはランダムだから仕方ないか。そう思うネイビスだった。

 二人のステータスはこんな感じだ。


 名前:イリス

 年齢:17

 性別:女

 職業:剣士見習いLv.6

 HP:21/21

 MP:21/21

 STR:14

 VIT:14

 INT:7

 RES:7

 AGI:7

 DEX:7

 LUK:7

 スキル:なし


 名前:ビエラ

 年齢:17

 性別:女

 職業:僧侶見習いLv.2

 HP:9/9

 MP:9/9

 STR:3

 VIT:3

 INT:6

 RES:6

 AGI:3

 DEX:3

 LUK:3

 スキル:なし


 イリスはともかくビエラはかなり危ういとネイビスは思う。パーティーを組めば取得経験値は三等分されるので、ネイビスは自分とイリスが戦って、先ずは第一スキルが取得できるレベル10を目指そうと思った。


 第一スキル一覧

 レベル10で習得


 ノービス:応急処置(自身のHPを微量回復する)INT依存


 剣士見習い:スラッシュ(強力な一撃を与える)STR依存


 僧侶見習い:プチヒール(対象のHPを少量回復する)INT依存


「これでも本当に北の森に行くの?確か北の森の推奨レベル10以上だったはずよ?」


 イリスが不安げにネイビスに訊く。

 南の平原、東の丘は推奨レベル3以上。西の草原は推奨レベル5以上となっている。職業によってステータスの上昇値は異なるため一概にはレベルだけで判断するのはあまり賢くはないが、それでもある程度そのエリアの難易度の指標にはなっている。

 ネイビスら三人は北の森の推奨レベルに達していない上にステータスの上昇値が低い初級職だ。無謀にもほどがある。


「イリス、ビエラ。今の俺たちに足りないものはなんだかわかるか?」


 ネイビスは唐突に二人に質問をした。


「レベルでしょ。あとは装備」

「私もレベルが足りないと思う」


 二人はそれぞれの答えを出すが、ネイビスは首を振った。そして答える。


「金だ」

「金?」

「あぁ。今俺が何ギル持っているかわかるか?」

「知らないわよ。私は2,000ギル持ってるわ」

「私は1,500ギル持ってます」

「0だ」

「はい?」

「俺はな。一文無しなんだ!」


 またしても登場するのはランダムシステム。一人一人のキャラが0から5000ギルの間でランダムに所持金が決まり、その合計がパーティーの所持金となる。


「ほんと呆れた。あなたこれから旅に行くのよね?それなのにお金ないって……」

「こればかりは申し訳ない。だか無いものは無いんだ。これでやっていくしか無い」


 開き直るネイビスに呆れながらも、いつものことかと諦めるイリス。


「それと、な。北の森は別名スライムの森と呼ばれている」

「知っているわ。確か普通のスライムに加えて魔法を使ってくる属性スライムが出てくるんでしょ?」


 属性スライムは魔法を使ってくる魔物の中で最も弱いが、実際は魔法を使ってくるというだけでとてつもなく脅威となる。それ故に北の森の推奨レベルが他のエリアと比べて高めなのだ。


「それとお金とどう関係するの?」

「ビエラ、いい質問だ。北の森にはな、シルバースライムとゴールデンスライムが現れるんだ」

「そんなの聞いたこと無いわ。授業だと、スライム、ファイアスライム、アイススライム、ウィンドスライムの4種しか現れないって習ったわ」

「シルバースライムとゴールデンスライムって、出現条件が分かっていない幻の魔物じゃなかったっけ?」

「確かにそれは合ってるが、シルバースライムとゴールデンスライムは北の森の隠しエリアに出現するんだ」


 ネイビスの言葉に驚く二人。イリスが訝しげにネイビスを問い詰める。


「なんであなたがそんなこと知ってるのよ?」


 ネイビスは焦る。前世の知識だなんて言っても信じてもらえなさそうだし、第一ゲームという概念が伝わらなそう。


「いやー。それはね。学校の図書室にある本に書いてあったんだよ」

「本当?」

「本当だって。俺が嘘つくメリット無いでしょ?」

「嘘。私、全部の本読んだけどそんなこと書いてなかった」


 ビエラがさらにネイビスを追い詰める。


「あれー。じゃあどこで知ったんだろう。ごめん、思い出せないや」

「なーんか怪しいわね」

「うんうん」

「まぁ、とりあえず北の門に行こうか」

「ちょっと、まだ話し終わってない!」


 話題を変えようとするが誤魔化せていないネイビスであった。

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