8.神とニンゲン
すがすがしい顔で言い放った女神に、私はそのまま口をついて出た疑問をぶつける。
「だれが、何のために莉子の記憶を改ざんするというの?どうやって他人の記憶に干渉するというの?」
「干渉はできます。わたくし、エルファレルの能力は『全知』ですが、他にも『夢想』の能力をもつ神や、『記憶』の能力をもつものもいるようですし。」
最初の何のために、という疑問には答えず、淡々と言う女神。
微笑みを絶やさずに向けるが、なんだか顔と言葉のバランスが奇妙だ。
なんというか……そう。感情が見えない。
笑ったり自慢げにしたりしているのに、本気でそう思っているように見えないのだ。表情筋だけを動かして、あとはなんの感情も無いような。
無意識に腕をさすると、粟立っていた。遅れて、少しぞっとする。ああ、やっぱりこの人は私とは違うんだと、最初から分かっていたはずなのに今更理解する。
超次元の者と対話していることに遅れて冷汗が出て、じっとりと握った手のひらが湿っていた。
「で。ステラの疑問はこれで解決されました。問題は——」
「でも」
「前世の記憶と現世の記憶が融合してしまうと、聖女は“壊れる”んです。」
少し困ったような——表情だけをし、そう言い放った女神に困惑した。
——この女神は、最初
確かに一人で突っ走る傾向はあったが、話はちゃんと聞いてくれていた。
いや、前が異常だったのか?神にとっては私はそこら辺に居る虫くらいの感情しか持っていなくて、最初は慈悲を向けていたのか?
悶々としていると、そんな表情に気付かないかのように女神は続けた。
「ニンゲンは“壊れる”と使い物にならなくなり、マナの量が衰え、オドが極端に減ります。つまりは、生活ができなくなる、ということです。」
そう言う女神に、なんとなく“壊れる”の意味を考えていた私は『最悪の想像』に頭を抱えた。こめかみがずきずきと痛む。
思わず押さえるが、一向に良くならない。構わず女神は話し始める。
「通称、人間界ではマナとは空気中に存在し、類族はそれを取り込み魔力に変換し、魔法が使えるようになる、と定義されていますね?そして、オドはニンゲンの体内に存在し、常に一定量を保っている。オドが少なくなると徐々に考える力が衰え、体も動かなくなり、廃人と化します。完全になくなると魂が消滅し、肉体は急激に土に還ります。———これが、人間界での常識ですね?」
「ええ、そうだけれど——」
「あれは間違っています。嘘です。でたらめです。根拠はありません。」
女神の続く爆弾発言。何度も何度も連続して爆撃される。
前世では強力なナントカ爆弾が二か所に落とされ被爆したと習ったが、話半分に聞いていたせいであまり覚えていない。
思わずため息が漏れ出た私を嘲笑うかのように、女神はさらなる爆弾を落とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます