悪龍ベニグモ丸対女魔王リコリス・ラジアータ

きょうじゅ

悪対善

 その巨大な漆黒の龍の背には、放射状に広がる八筋の赤い痣があった。故に、彼は紅蜘蛛丸べにぐもまると呼ばれていた。


「紅蜘蛛丸。今こそ、勇者シガンが貴様を討つ」


 深い海のような神聖な蒼さをたたえた鎧を纏った一人の益荒男ますらおが、そう言って紅蜘蛛丸に飛びかかった。体躯数メートルに及ぶその巨体を下に見るその跳躍力は明らかに人間のそれではなかった。その具足に、強化エンチャントの魔法がかかっているのである。シガン自身の力ではなく、この場にはいない彼の仲間によるものであった。


顕界げんかいせよ、ついの剛剣技! 神皇彗星撃しんおうすいせいげき!」

「ガオオオオオッ!!」


 シガンの剣が振り下ろされ、そして紅蜘蛛丸の片眼を深々と切り裂いた。頭の上に着地している。だが、紅蜘蛛丸が大きく身をよじると、必然的に振り落とされた。いくら超越的な魔力に守られてはいても、重力という力に逆らうことはできない。


 と。


 シガンが着地しようとした場所に、黒々とした闇が口を開けていた。


「何ッ!? これは!」


 それは紅蜘蛛丸の力によるものではなかった。シガンはそれを知っていた。紅蜘蛛丸とは対立しているはずの、魔王リコリスが用いるゲートと呼ばれる魔法。その闇は、何処とも知れぬ異世界へと通じているのだった。


「うわあああああっ!」


 シガンの身体は闇に呑まれて消えた。魔王リコリスがその闇の中からどっこいしょと姿を現した。


「はい、約束どーり、勇者は異次元の彼方に飛ばしたわよ。じゃ、あとはあたしとアンタの決着をつけるだけね」

「ああ。我と汝の事前の密約通り」

「そう。今からかっきり丸一日。あたしとアンタの軍の開戦。それで決着をつけて、この世界は勝った方のもの」

「うむ」


 そういうわけなのであった。世界の帰趨を決めるための戦いの火蓋は、これから丸二十四時間後、切って落とされるのである。

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