第29話 その話、もっと聞きたい!
「お姉様っ!」
フランは声を上げると同時に
そして、私の目の前に居る男性に
――早いっ!
私が――待って!――と言う
――いや、感心している場合ではない!
相手が普通の人間であったのなら、反撃する時間もなく、身体が
「あら?」
フランは相手の正体に気が付いたようだ。
剣を振り下ろすのは
そのまま、振り向いた彼へと
だが、心配はいらない。
ポムッ!――と彼に抱き
(まるで、
――いや、本当にそうなのかも?
彼が私の想定通りの人物なら、幼い頃からフランの事を知っている
恐らく、お
つまり、小さい頃はああやって、彼に抱き着いたりしていたのかも知れない。
「ベ、ベガート⁉」
一方、ベガートと呼ばれた彼も同じ心境だろう。
彼の正体が分かった私は――やっぱりね――と溜息を
「まぁ、
とはベガート。物騒な事を言わないで欲しい。
彼は本気でそう思っているようなので、
「それは困るわ!」「キュイ⁉」
私はベガートを指差すと、
「妹を人殺しにする訳には行かないもの!」
と答える。
そして、ゆっくりと抱き
アーリはいつの間にか、彼女の
一方、ベガートはそのまま前進すると、
「リオル! エレノア様は中々に面白いな!」
突然、大きな声を上げた。
その視線の先には、お兄ちゃんが居た。
「ベガート――お前は相変わらずだな……」
魔術を使わずに登って来たからだろうか? 両
だが、その表情は
† † †
ベガートは右手に力を
すると、土が盛り上がり、石の
「相変わらず、繊細さに欠けるな」
とお兄ちゃん。
「
とベガートは反論する。
どうやら、魔術の操作はお兄ちゃんの方が上らしい。
「石だとお尻が痛くなるし――冷える」
お兄ちゃんはそう言って杖を
すると、植物が伸び、石の
「お前……そんなに気を
ベガートは首を
「俺の大切な妹が
兄はそう言って、構わずに準備を始める。
水球を空中に作り出し、
お湯の出来上がりである。
私はキューイをフランに
直接
鍋の
そうかと思うと、人数分の木製のカップが実る。
(不思議だ……)
初めて見る――新しい魔術である。
汗を
一方で、
「まるで師匠みたいな使い方を……」
と
「
とはお兄ちゃん。
(いつもは
「
ベガートが突っ込む。
「試してみるか?」
お兄ちゃんは言う。
(やけに挑発的ね……)
だが同時に、再度、水球を出してくれる。
私はおしぼりを用意して、皆に渡した。
「こんなに楽しそうなベガートを見るのは久しぶりだわ」
フランは二人の様子を見て、そんな感想を
アーリは面倒なのか、ただ黙って観察している。
「でも、どうしてベガート……さん? がここに?」
誰も質問しないので、私が質問した。
ベガートは、
「呼び捨てで構いませんよ――エレノア様」
と
(オオカミだけど……)
「分かったわ、ベガート……私の事はクタルと呼び捨てでお願い」
私の言葉に彼は――ハッ――と返事をする。
そして、
「クタル――月光の娘だったか?」
そんな事を
お兄ちゃんは――さぁな――と視線を
――そういう意味だったの?
(てっきり、リオルとクタルで
ベガートは立ち上がり、
「そう言えば、師匠は趣味で昔話を集めていたな」
お前は好きで、よく聞いていた――と
お兄ちゃんは少し不機嫌な顔をする。
ベガートはお構いなしに――ああ、思い出した!――と一言。
(
「月から来たお姫様の話だったか? その主人公の女性が――」「止めろ!」
お兄ちゃんはベガートの話を
(なるほど……)
どうやら兄は私に、お気に入りの物語のヒロインの名前を付けてくれたようだ。
――その話、もっと聞きたい!
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