第43話 幼馴染の憂鬱

 レオンがこの帝都にやってきた──


 理由は分かっている。私が心配で、帝都まで追ってきてくれたのだ。


 だけど、私がやろうとしていることに、レオンを巻き込みたくはない。私は、帝都に来てくれたレオンを冷たく突き放した。


 それもレオンのため……ヴェルシアで安全に暮らしていてほしかった。


 でも、実際は私のためでもあった。


 私には、成し遂げたいことがある。いくつもの仮面を付けて、私は“私”を演じ分けないといけないのに、レオンは邪魔だったのだ。


 そしてやはり、レオンは”私”の邪魔になってしまった。

 レオンが帝都に来た日から私の頭は、レオンのことでいっぱいになってしまったからだ。


 ──これじゃ何も手に付かない……


 ヴェルシアがかつてのヴェルシアに戻れるその日までは、もうレオンや皆と会わないと決めたのに。私は思いのほか、自分が未熟だと感じた。


 ともかく頭が、体が、レオンを求めていた。


 だから、私はこの緊急事態に対処するために、寝る前に十分だけレオンのことを思いっきり考える時間を作った。


 その時間では、レオンといつもの庭園で遊んだり、城下町で何かを食べたり……最近はちょっといけないことも考えたり。毎日、レオンのことを想って眠りに就くのが私の日課になっていた。


 本当の“私”には、レオンが必要だったのだ。


 しかし、ある日事件が起こった。

 もう関わらないと決めていたのに、私はレオンとアレンの決闘に手を貸した。


 あれは本当に予想外だった。何故、レブリア公の息子アレンがああいうふうに暴走したのか。それについては私も、裏から表から色々と捜査を進めた。入学式での騒動からも、士官学校で何か陰謀が渦巻いていると感じたからだ。


 犯人も見つからなければ、犯行の手法も予測でしかない。


 ただ、確かなことが一つ。


 それは、この帝国がもう長くないということだ。


 もちろん、一国がそう簡単に滅んだりはしない。


 私が言いたのは、様々な矛盾を魔力というもので抑えてきた帝国がついに爆発し、四散するという話だ。


 つまりは、帝国は内乱状態となる。


 そうなったとき、帝国は大異形軍と宇宙連合に組み込まれてしまうだろう。


 そしてそのどちらが帝国を制圧しても、ヴェルシアの未来は暗い。大異形軍は人間を、宇宙連合は魔物を、ヴェルシアから取り除こうとするだろうから。


 ならば、帝国を存続させるのがヴェルシアにとっていいのか──それも断じてない。


 私はこの混乱を利用して、帝国に生まれ変わってもらいたい。


 そのために私は、いつものレオンと過ごすわずかな時間をご褒美に、頑張っていた。


 レオンと、ヴェルシアのため……そして今は、自分の理想の世界のため。


 その割には、事あるごとにレオンを覗いてしまっているけど……


 なんだか皇女エレナと最近仲がいいみたいだし、クラスでも可愛い子に話しかけられていた。私はそれを遠目から誰にも気づかれないよう眺めていた。


 ……レオン。


 日に日に、夜に私がレオンを想う時間が増えてしまっている。やることも増えているのに。


 私は再び、気を引き締めることにした。それは、大きな戦いが近いと分かっていたから。


 そうして迎えたノトス宙道の奪還戦では、やはり事件が起こった。


 後方で何かが起こることは知っていた。転移阻止装置付近の怪しい動きを封じ込めるため、仲間と動いていた。名は明かさず、エレナにも注意を促したが、エレナもその動きを把握して独自に動いているようだった。


 これなら大異形軍と、帝国の内通者の動きを抑えられる。


 だが、規模が違った。内通者は数人、十人どころではなかったのだ。


 一番の失態は、敵空母三隻からなる大艦隊を転移させてしまったことだ。


 しかも、その間近にいたレオンが救援要請を送ってきたのだから、気が気ではない。


 その報を聞いたとき、私は別の地点で転移してきた大異形軍の別の艦隊と戦っていたが、仲間に任せられるようになったあと、すぐにレオンのもとへ急いだ。


 着いた場所は、恐らくこの戦場の中で最悪の場所だった。


 レオン一人に対して、空母三隻と数百の鎧が襲い掛かろうとしている。


 私はすぐさま、大異形軍の戦列に突撃した。


「レオン! レオン!」


 通信妨害装置のせいで上手く伝わっているか分からない。


 レオンとの間に展開する数百の鎧を倒したながら、私は呼びかけた。


 このままでは、レオンはもちろん私もやられてしまう。


 そんな時、レオンの近くに黒い鎧が現れた。レオンにも、仲間がいたのだ。


 それから予想よりずっと早く帝国軍の艦隊が救援に来てくれた。


 そうしてやっと、私もレオンの近くへ行くことができた。


「レオン! 大丈夫だった!?」


 思わず、そう声をかけた。


 だが、あの激戦ではとても聞こえてはいなかったようだ。


 それから少しして、レオンは救援に来た第四軍団の艦隊に向かう、士官学校の生徒の艦に目を留めた。


 明らかにおかしな挙動をするその艦に、レオンは私たちにその場を任せ向かった。


 私はこの時悟った。

 レオンはレオンで、士官学校の内通者のことを調べていた。だから、怪しい動きに気付けたのだと。


 その艦はレオンに任せることにした。


 しかしまもなく、私の目には空母に向かう士官学校の生徒の鎧や艦が見えた。


 その中には、転移阻止装置を停止させ行方を眩ませていた者もいた。ただの投降で終わるとは思えない。空母の要塞砲への魔力の充填に使われるのは間違いない。


 ちょうど、第四軍団に迫る士官学校の生徒の艦が沈んだのを見て、私はレオンに空母へ行くと通信を送った。近くの黒い鎧も任せてくれと言ってくれた。


 だが、私が空母へ向かおうとすると、敵の精鋭部隊が現れる。


 やはり彼らは空母に近付けたくないのだと思った。


 ここはレオンに頼らなければ抜け出せない。私はヴェルシアを出て初めて、レオンに助けを請うことにした。


~~~~~


 本日、遅くなって申し訳ございません。

 フェリア編は、もう一話続きます。

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