第61話 舞踏会のドレス

 翌日。マーガレットたちにカインと舞踏会に参加することになったと報告すると、「なぁんだ、やっぱりメリウェザーさまと参加するんじゃないの」「ビアトリスったら、あんなに否定していたくせに」と二人から散々からかわれた。


 それから舞踏会までの数日間、三人で当日のドレスやアクセサリーの話題に花を咲かせた。シャーロットが婚約者から贈られるドレスを着ていく予定であることは以前から聞かされていたが、マーガレットも婚約者から贈られることになったらしい。


「あの人ったら、ドレスは大分前から用意していたのに、照れくさくて『ドレスを贈るよ』ってなかなか言い出せなかったそうなの。今頃になっていきなり言われても困ってしまうわ」


 マーガレットはそう口を尖らせたが、とても幸せそうだった。


 カインもドレスを贈りたがっていたが、さすがに今からでは仕立てるのが間に合いそうにないので、結局諦めることになった。ただ本人がしきりと残念がるので、ビアトリスが「それじゃカインさまからのドレスは次の楽しみに取っておきますね」と慰めたところ、「次も一緒に参加してくれるんだな」と返されて、思わず赤面する羽目になった。

 あれ以来、カインはビアトリスに対する好意を全く隠さなくなった。カインは舞踏会の晩に個人的な話があると言っていたが、果たしてぼかす意味があるのかという素朴な疑問すら湧いてくる。



 そしていよいよ当日になり、ウォルトン公爵邸にパートナーのカインが迎えに来た。今日のビアトリスのドレスは赤紫色である。最近仕立てたドレスの中に、ちょうど赤を基調としたものがあったので、今日はこれを着ていくことに決めたのだ。


(だってカイン様の色と言えばやっぱり赤だものね)


 現れたカインはビアトリスを一目見るなり「綺麗だ」と目を細め、「赤いドレスだな」と付け加えた。


「ええ、赤いドレスです」


 ビアトリスもそう言って微笑み返す。そしてビアトリスはカインと共に、舞踏会の会場である王宮へと赴いた。

 今の王妃との関係を思えば、王宮はいわば「敵陣」ともいえる場所だが、ビアトリスはさほどの不安を覚えなかった。アーネストの警告を忘れたわけではなかったが、今日は主だった貴族がこぞって集まる公的な場で、国王夫妻には主催者としての面目もある。いくら王妃と言えど、そうそう嫌がらせもできないように思われた。


 また王妃の流した悪評をバーバラの助けであっさり解消できたことや、ウォルトン家の取引先に関する嫌がらせがあまりダメージにならなかったことなども、ビアトリスの「こんなものか」という気持ちに拍車をかけていた。

 それに隣にはカインがいるし、会場にはマーガレットやシャーロットをはじめ、ビアトリスにとって親しい人間が大勢いる。彼らが一緒にいるのだから、何があろうと大丈夫。


 ――言ってしまえば、ビアトリスはそんな風に高をくくっていたのである。

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