第22話 悪い癖だぞ
それからしばらくの間、学院は試験騒動の噂で持ちきりだった。マリア・アドラーの暴走と、それを見事におさめたアーネストの手腕。
校内で生徒会役員たちを見かけることはたまにあったが、アーネストは相変わらず大勢の人間に囲まれている一方で、マリア・アドラーはひとりでいることが多かった。たまにレオナルドと二人でいることもあった。
ビアトリスにはマリアに同情してやる義理はない。それなのに、悄然とした彼女を見かけるたびに、なにかもやもやとした思いが胸の奥からこみあげてきた。
これは一体なんなのか。
「……なんだか最近浮かない顔だが、なにか悩み事でもあるのか?」
いつものあずまやで会っているとき、カイン・メリウェザーが問いかけた。
「いえ別に、悩みと言うほどのものではありません」
「悩みというほどじゃなくても、気にかかることはあるんだろう? そうやって一人で抱え込むのは君の悪い癖だぞ」
間近に顔を覗き込まれて、どきりと心臓が撥ねるのを感じる。
この人は本当に整った顔をしている。
「……おかしな妄想じみた話なんです。人に打ち明けるようなことではありません」
「妄想かどうかは聞いてから判断するよ。とりあえず聞かせてくれないか」
ビアトリスはしばらく迷っていたものの、結局今まで感じていた不安をカインに全て打ち明けた。
アーネストにいさめられたときのマリアの表情、マリアの声。
何か言いたげだったのに、口をつぐんだマリアの様子。
あのとき彼女は何を言おうとしていたのか。
「……生徒会の手伝いをしていたとき、パーマーさまに聞いたことがあるんです。試験結果の順位表は、校内に貼りだされるのと同時に、縮小版が学校資料として生徒会室に届けられるんだそうです。だから生徒会役員は、一般生徒と押し合いへし合いしながら、貼りだされた順位表を確認に行く必要はない、大きな声では言えないが、生徒会役員の特権だと。つまりアーネストさまとマリア・アドラーには、今回の試験結果について、事前に話し合う機会があったんです」
「要するに、君はこう言いたいんだな。生徒会室で試験結果を目にしたマリア嬢が『これは不正だ』と騒いだ時、その場にいたアーネストは彼女に賛同していたのではないか。だからこそ、マリア嬢はアーネストにいさめられてショックを受け、不自然な様子を見せたのではないか、と」
「馬鹿げた妄想だって分かっています。それこそ、酷い言いがかりだと」
「いや、そうとも言い切れないだろう、……ひとつ確認してみるか」
「確認って」
「決まってるだろう。マリア嬢を呼び出して聞いてみるんだ」
「え、でも」
「分かっている。いきなり俺たちが呼び出したところで、彼女は警戒して応じないだろう。彼女と親しい人間に仲介してもらう必要があるな」
「彼女と親しい人間?」
「ああ、手頃な奴が一人いる」
カインはいたずらっぽく笑って見せた。
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