第19話 衝撃の試験結果
貼りだされた順位表に生徒たちが詰めかけるのはいつものことだが、今回は何故かいつも以上に人が多く、みな興奮しているようだった。
「みんな何を騒いでいるのかしら」
「前の方にいる人は見終わった順にどいてくれないと、あとから来た人が見られないじゃないの」
マーガレットとシャーロットはぼやきながら、結果を見ようと首を伸ばしてつま先立ちになっている。ビアトリスも同様につま先立ちになって、なんとか自分の名前を確認しようとし――
「まあビアトリスったら一位よ!」
「すごいわビアトリス!」
――確認する前に、友人たちから己の順位を知らされた。
見れば本当に、一位のところにビアトリス・ウォルトンの名前がある。
「え、うそ……」
「本当よ! おめでとうビアトリス!」
「さすが私たちのビアトリスね、おめでとう!」
「二人ともありがとう。きっとあの過去問のおかげだわ」
マーガレットがくれた過去の試験問題と、カインの丁寧な指導のおかげだろう。
入学以来、いくらまじめに勉強してもどうしても三位以内に入れなくて、今までずっと悔しい思いをしてきたが、ここにきてまさかの一位とは。胸の奥からなんともいえない喜びがこみあげてくる。
マーガレットは三十二位、シャーロットは十一位で、いずれも普段よりずっと良かったらしい。ビアトリスも彼女らにお祝いの言葉を伝えたところ、「ビアトリスに教えてもらったからよ」と返されたのがくすぐったい。
ひとしきり互いに喜び合ってから、ビアトリスは再び順位表に目をやった。
(二位はパーマーさまなのね、じゃあ三位は……え?)
そこに当然あると思っていたアーネストの名前は見当たらなかった。特待生のマリア・アドラーですらない。
三位はエルマ・フィールズ。四位はエルザ・フィールズ。なんとシャーロットの屋敷で何度か一緒に勉強した双子の姉妹だった。本人たちは「いつも十番前後なんです」と言っていたが、今回はずいぶんと調子が良かったらしい。
マリア・アドラーは五位だった。
そしてアーネストは――
「嘘だろう? アーネスト殿下が七位って、なにかの間違いじゃないのか?」
「信じられませんわ、入学以来ずっと一位か二位でしたのに」
「アーネスト殿下は体調でもお悪かったのかしら」
「驚いたな。殿下とシリル・パーマーの首位争いは卒業までずっと続くもんだとばかり思っていたよ」
「しかも一位があのビアトリス・ウォルトンだもんなぁ」
「特待生のマリア・アドラーも五位だなんて、今回は本当に大番狂わせね」
生徒たちが騒いでいる内容が、次第に耳に入ってくる。
(これってまさか、パーマーさまの言っていた話が関係しているのかしら)
シリル・パーマーはビアトリスが生徒会を辞めたとき以来、アーネストの様子がおかしいと言っていた。しかしビアトリスが遠目で見かけた時は、いつものアーネストだったので、大したことはないのだろうと、深く考えずにいたのである。
しかしこの試験結果が、シリルのいうアーネストの変調によるものだったとしたら、話はまるで違ってくる。
シリルの言う「ビアトリスが辞めたとき以来」というのは、ビアトリスからみた場合、アーネストにキスされかけたのを突き飛ばして以来ということだ。
まさかアーネストはあのことがショックで、勉強が手につかなかったなんてことがあり得るだろうか。
(ううん、まさか、あり得ないわよね、そんなこと……)
それは確かに、婚約者にあんな形で拒まれることは、年頃の青年にとっては大変ショックな出来事だろう。しかしそれは世間並みの婚約者同士の場合である。
アーネストにとってのビアトリスは、ひたすら邪険に扱って顧みなかった形ばかりの婚約者だ。ここ最近はビアトリスとの関係改善を試みていたこともあったが、それにしたって今後を考えての合理的判断ゆえだろうし、あのとき呆然とした様子だったのも、せいぜい所有物に拒まれてプライドが傷ついた程度のことだとばかり思っていたのだが――
(でももし、本当に私とのことが原因だったとしたら)
本当に自分が原因だとしたら、自分はどうすればいいのだろう。
ビアトリスが頭を悩ませていると、少し離れたところにいたフィールズ家の双子の姉妹がビアトリスを見つけて、こちらに手を振って来た。
「あ、ビアトリスさま、一位おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「ありがとう、エルマとエルザも三位と四位おめでとう」
「ビアトリスさまのおかげですわ!」
人垣のせいで距離があるため、自然に声が大きくなってしまう。周囲の生徒に迷惑をかけないよう、順位表の近くから移動することを提案しようとした、まさにそのとき、聞き覚えのある声が辺りに響いた。
「皆さん、これは不正です!」
甘く澄んだ高い声。
「こんな結果、どう考えたっておかしいです。試験でなにか不正がおこなわれたに決まってます!」
見ればストロベリーブロンドの少女が、憎しみに燃えた目でこちらを睨みつけていた。
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