7

Episode 48 (7-1)

 ある日の放課後。

陰光大学教育学部付属陰光中学副校長のメルタ・エーマン、ラレス・サーシャは陰光大学内の会議室に向かっていた。

 二人が会場となる会議室に着いた頃には、前回も参加していた陰光大学史学系講師のナタリー・ベヴィス・アンダーソン。

 陰光大学人文科学系学生のカレン・ルイーズ・オスマンがいた。

「今日は、私もこの後主任会議があるので、今回は手短に行いたいと思います」

 今回設定された時間は一時間程。

 参加者各自で調べたものを仮のプレゼンを行う。

 しかし時間の関係上すべては出来ないと見こして、後日に今日紹介しきれない部分をプレゼンし討論する。

「以上で、私の研究は終わります」

 メルタとサーシャ。

 その他の参加者は半分ほどの紹介が終わり大幅な結論が見えてきた。

「この会議の議長である私が一先ずまとめを言うと、全てに当てはまる訳ではない。けれど、何人かの生徒はこの世界に既存する神話と関係していると言えるわ」

 メルタは後日行われる続きを持って結論を述べる。

 だが仮定としては不思議なほど、一部の生徒達に共通がある。

「ピロロロン……ピロロロン……ピロロロン……」

 メルタとサーシャのスマホに突如同時に電話の着信音が鳴る。

 二人は目を合わせて違和感を抱いていたが、二人はその着信に応じる事にする。

 メルタが先に緑のボタンへスクロールした。

 サーシャもゆっくりとスクロールした。

「もしもし、どちら様でしょうか」

「も……もしもし……」

「……」無音が続く。

 一分が経過しようとしている現在。

 メルタはしびれを切らして、口を開いた。

「迷惑電話なら切りますよ!」

 その直後、相手側がやっと喋った。

「Ianua Dei vocate! !!」

「なっ、何?」

 電話相手が異国の言葉を話した直後。

 メルタ、サーシャ、ナタリー、カレン達の体全体で大きく建物がぐらついているのを感じていた。

 それは、命の危険が間近に迫っているような恐怖というべきものだった。

「ピーピーピー! 地震です。地震です。ピーピーピー! 地震です。地震です」

 日本各地にある地震観測所の機械から各デバイスに情報が発信されている。

 しかし、速報内容を見るとそれは通常の地震ではない事が一目瞭然だった。

「なんですって……、そんな……」

 発生地が江戸湾近海だという事は分かった。

 しかし、震度やマグニチュードが不明と出ていた。

「変です! 明らかにおかしいです!」カレンは地震の衝撃もあり、取り乱していた。

「皆、落ち着いて! 頭を守って!」メルタは率先してその場の行動を指示した。

「皆さん、急いで外へ!」

 廊下から大学の教員がやって来た。

 資料は既に片付けられていた。会議に関係しない者達に資料の内容を読まれる事を避けたものだった。

 助けに来た教員の指示に従った。

「他の生徒は?」

「学生は自主的に動きましたよ。ほら、ちゃんと避難行動は各部屋に提示されていますから。唯一、それが書かれていないのは会議室のみ。何のために使用許可書などを提出されていると思っているんですか」

「そうですね……」

 教員を先頭にメルタ達は建物外の広場へ集まっていた。

 そこには陰光大学の学生、教員達。また、地域住民などが集まっていた。

「学生はこっちにー!」

「近隣に住まわれている方と避難してきた方はこちらへ来てください!」

 陰光大学の危機管理システムが正常に実行されている現れた状況が広がっていた。

 病院も有する陰光大学は学生や近隣住民達の避難も考えた計画が盛り込まれており、常に災厄のシナリオまでも計算し尽くされている。

「せっ……先生。あっ……、あれっ」

 カレンが困惑した顔で右の人差し指を空へ向けた。

「今度は何? カレン。あなたあまり動揺しすぎよ」

 ナタリーは急いで持ってきた書類を自分のバッグへしまい込んでいた。

 しかし、彼女の一言でカレンの声から漏れる表情は変わらなかった。

「いっいや……、現実的にこんなのって……」

 ナタリーはそこまで動揺するカレンの視線に答えようと指さしたものを見た。

 目線の上。東京や神奈川の海へ方向を向ける。真っ黒い塔が立ち上っていた。

 通常、広場から見えるのは近隣の建物。その奥には低い山が広がっている。

 塔が半日足らずで建立されるなど、現代の力でもなしえない事。

「メルタ先生……。ここ最近、あんな大きなタワーが出来るだなんて……知っていましたか?」

 ナタリーはメルタがここまで事情を知っているか半信半疑だったが、ダメ元で聞いた。

「いいえ……」

(そりゃ、そうだ)

 ここまでの事態を想定、知っていたらここまで動揺しないとナタリーは反省した。

「あれは、商業目的なものではない。明らかに異端技術が使われている代物だ」

 サーシャは異端技術で作られた代物だと言った。

 長年大学近くで生活してきたナタリーやカレンにはよく分からなかった。

 二時間程、大学内の広場で待っていたメルタ達にテレビ局やラジオ局などの情報が入って来たのは、夕食が配給された七時半の事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る