Episode ⅩⅩⅩⅢ (5-10)
学園祭の余韻を味わいたい生徒達によって執り行われた後夜祭。
二日目の後夜祭、最初に行われた大食い選手権の課題は背油たっぷりの家系ラーメン。
優勝者の中学一年い組、ミツキ・ペーターは胃薬を飲み休んだ。
バンも薬を飲んだものの大会終了後に帰った。
アテナ、エレン、トリンドル、サーカ、慧達は大食い選手権後に行われる景品付きの謎解きゲーム大会、陰光生たちの日頃の鬱憤を叫ぶ大会に参加する。
要所、参加に限定されるものはあるが、ギャラリーとして学校へ残る。
後夜祭司会進行役の生徒は再び登壇した。
「大食い選手権、盛り上がりましたね~。大食い選手権参加者の皆さんは体調に変化がありましたら、近くの係員へお伝えください。では、次のコーナーに行きます。謎解きゲーム大会です!」
謎解きゲームは現在、様々な世代に人気のゲーム。
開発によってはビジネスにもつながるちょっとしたブームとなっている。
アテナ達中学一年い組の仲良し組はざわつき始めた。
「どっ、どうしよ~私達一つも謎解きとかなぞなぞとか解けないよね」
トリンドルが一番戸惑っていた。
「と、とりあえず、頑張ろう!」
アテナはチームを鼓舞する。
ゲームは終わり結果発表に入った。
「では、謎解きゲーム大会優勝者は高校三年ろ組……」
二位は中学三年へ組。
三位は高校二年い組だった。
「は~やっぱり私達だけじゃダメだったね」
トリンドルは無念の言を口にした。
アテナ達は十問中五問正解だった。
始まる前から結果が分かっている雰囲気だったが、現実となった。
「あとは、陰光生たちの日頃の
「うん、日頃の鬱憤とかこの学校の人達は皆、良い人達だから、ストレスとか、不満とか無いような気がするけど……」
トリンドルとアテナは陰光学校内で何かしらの問題や悪い噂を聞いた事が無い。
実際に、入学して半年経つアテナだが、事件性のありそうな事例も見かけていない。
本当にこの学校はブラックな雰囲気や環境なのかと言われると違和感しかなかった。
「けどね……それがあるんだな~」
「あっ、ミツキちゃん……もう大丈夫?」
アテナが立ち上がったミツキを心配した。
「あーもう大丈夫だよー。食べたものは大体消化仕切ったし」
こう言うものの、ミツキは右手でお腹を擦っていた。
「また具合が悪くなったら言ってね」
サーカが心配して声をかけた。
「あっ、うん! ありがとうサーカ。って、この学校の裏の話だけど。日常的に皆のために羽広げてる人に限って、抱え込むって事が多いんだよ」
「ほぉ」
アテナがミツキの言葉に反応するように返答した。
しかし、それはあまり理解していないものだった。
「皆、気づいていないと思うけど、中のクラスの重要人物がさっきから一番右にいないけど……」
ミツキの言う一番右を見た。
そこにはトリンドルがいた。
しかし、さっきまでトリンドルの右にいたもう一人の人物がいなかった。
「えっ、まさか……、エレンちゃんって、ルーム長職に就いているから日頃からストレスを……」
アテナは顔が保冷剤色の顔となっていた。
「分からない。でも、上に何かしらからの圧力とかあったりして……」
トリンドルも少々冷や汗をかいたような顔に両手を口に当てて言った。
「いや、あり得るかもね……。うち、まあまあ大きい学校だから……同調圧力的な事だってありえるよ。ここは良い学校だと思っていたけど、やっぱり集団心理というものは恐ろしいね」
ミツキは仮定ではあるが話を広げた。
「ちょっと、三人とも! お葬式ムードを漂わせて! ここは後夜祭の楽しい空気を出さなきゃ!」
サーカがテンションの下がった運動部のチームをやる気にさせるように手を叩きながら鼓舞した。
「サーカちゃん、凄い気合が入ってるね」
アテナはサーカの気合を入れように驚いた。
「でも、本人が出るっていうんだったら、まずは本人の言い分を聞いてから考えよう。最悪、皆で抗議しよう」
ミツキは大会後に意見があった場合、全員で抗議をしようと提案する。
「そうだね……って、それでいいのかよ!」
何はともあれ、全員納得した。
アテナ、ミツキ、サーカ、トリンドル、慧はこの陰光生達の日頃の鬱憤を叫ぶ大会という謎の大会に出場するであろうエレンの登場を待った。
「さー、続いては陰光生達の日頃の鬱憤を叫ぶ大会です」
進行役の生徒が登壇し、陰光生たちの日頃の鬱憤を叫ぶ大会の趣旨説明を始めた。
文字通り、陰光生たちの日頃の鬱憤を叫ぶ大会だ。
陰光生と書かれているが、実際に陰光大学内で勤務している小学校から大学までの教員、事務員、職員などの参加を募集していた。
「こんな変な名前の大会ですが、なんやかんや十年ほど続いている大会ですので、抗議のある方は学園祭運営委員会へ申し出てください。私は責任を負いかねません」
司会はきっぱりと実施した責任放棄を宣言した。
「では、今回の審査員の皆様をご紹介します。高校・生徒会会長、同じく高校・風紀員会委員長、中学生徒会会長、同じく中学・風紀委員会委員長、中学高校・部活管理委員会会長、陰光大学部活管理委員会会長の以上、五名で今大会の審査をさせていただきます」
進行役の生徒によると、学校運営や学校生活、設備など、現実的に不満や改善意見を申し出た場合は審査員として参加する生徒会委員によって、速やかに審議される。
「では、行きましょう! 最初はこちらの方」
大会には生徒、教員、事務員の枠を超え様々な陰光大学関係者が登壇しては、十点中四、五点で点数が確定してしまったり、今大会で扱うには重すぎる内容と判断され、後々公式の文章で学校側に要望するように勧められたりなど、満点に至るまでには長い道のりとなっている。
出場者の五十人中半分が発表を終えた。
「次の方どうぞ!」
司会が次に日頃のストレスを発表する参加者を読んだ。
「あっ、えっ、そうなの……?」
ミツキが驚いたような表情を浮かべながら、思わず言い放った。
「あっ、みっみなさん。こっこんばんは……。えっと……中学の方で司書をやっています……。マリン……ヘルベドール……、です……」
それは陰光大学教育学部付属陰光中学の図書館司書を務めている。
そして、アテナたちにとってはクリエィティブ部活・MUSEの顧問でもある。
「なんで先生が?」
トリンドルが疑問を浮かべていた。
それも、一緒にいるアテナ、サーカ、ミツキ、慧も一緒だった。
「先生って、いつも穏やかだから何も抱えていないと思ったんだけど……。やっぱり、詰んじゃってるのかな……」
「やめてよ慧くん、先生はそんな抱える人じゃないから……たぶん……」
サーカは慧の一言を否定した。
しかし、彼女自身もマリンの内情を知らず少々心配している。
「あっ、始まる」
アテナが二人の会話を止め、マリンのスピーチに身を傾けるように言った。
「あっ……あの……私はこの学校に勤め始めて、三年目になります。これまでもとても楽しい学校生活を中学の皆と……、もちろん今も過ごしています……。そして、この四月から部活の顧問も生徒の皆から頼まれました。最初は……少し戸惑った部分もあったのですが……今はとても充実? しているように思っていたのですが……この機会に皆に、特にMUSEの皆に言いたい事があります……」
いつものマリンとは違い、名指しで発言する。
「あの……一応、顧問なのですが……もうちょっと、顧問らしい事……させてください!」
意外な発言にアテナは少し混乱した。
「あれ? 私って、先生に何か頼んだとかした……よね??」
「顧問を頼んだ以来、自分たちで色々と活動していたから、全然関わっていなかったかも……」
アテナはやってしまったという顔をしていた。
今すぐ、謝罪の弁を述べようとステージ前のマイクへ向かった。
「では、マリン先生へ何か申し出たいという方は前へ出てきてください」
「はい! はい!」
「では、所属とお名前をお願いします」
アテナは焦った顔で言った。
「あっ、中学一年い組のアテナ・ヴァルツコップです。マリン先生、すみません。学園祭終了の数日後にバーベキューしようと思うので、マリン先生も是非、来てください!」
「はっ、はい!」
マリンは涙目になりながら、今回の件は和解した。
アテナのとっさの行動によって、その場の空気は収まった。
「では、判定をどうぞ!」
弁明が終わった途端、この回の判定が行われた。
「二点、一点、二点、二点、一点。合計八点! 今大会トップの数字です! この数字を打ち破る方は現れるのか? では、次の方どうぞ!」
出場人数的にタイムテーブルは遅れ気味のため、どんどんと大会は勧められる。
ステージ近くからアテナが戻って来た。
「あーこの大会って、心臓に悪いよね」
アテナは自分の心臓を擦った。
「まぁ、内容によっては笑いにもとれるし、修羅場にもなるから、皆この大会にはいたくないとは思うよね。誰に当たってもおかしくないし」
ミツキはこの学校の行事を熟知しているため、平然と言った。
「それにしても、エレンちゃん。まだかな~」
トリンドルがエレンの行方を心配していた。
「そろそろじゃないかな~」
ミツキは少々退屈そうに言った。
「ミツキ、フライドポテト食べるか?」
慧がミツキに提案した。
「お! いいね~」
「ミツキちゃん、ちゃんとウーロン茶飲んで!」
サーカがミツキの胃を心配してバスケットからペットボトルのウーロン茶を取り出した。
「さて、次は四十一番目のこの方です!」
ステージ上の人物にミツキが気づいた。
「やっと、来たかー」
アテナ達はMUSEの部員、中学一年い組生徒として待っていた人物だった。
「では、所属と名前をお願いします」
「中学一年い組、ルーム長のエレン・クピードー・ジョンソンです」
アテナ達が待ちわびた我らがエレンの登場。
「さて、どんなものが見られるかな……」
エレンは窘めるかのようにそのスピーチを注視した。
「私は……」
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