第37話 はい

とっても穏やかで優しいすずのさん


認知症がかなり進んでいて、自分から周りへ話しかけることは無いが

いつも穏やかに微笑んでいる


返事は「はい」とすべてこの一言だけ


利用するデイサービスでは、穏やかなすずのさんの隣は争奪戦

静かに過ごしたい方にとって、微笑んでいる穏やかな人の隣に座ると癒される様子

争奪戦で負けた方は、本当に残念そうにしている


利用していたデイサービスの送迎車が事故を起こした時

すずのさんは同乗していた


軽い事故であったが、事故の時は同乗者全員を救急搬送する決まりになっている

運転者は、救急隊員に全員搬送をお願いしたが

すずのさんに救急隊員が「大丈夫?」と聞き

「はい」と返答したとのことで、すずのさんだけ搬送されなかった


運転者が何度も搬送をお願いするが、聞き入れてもらえず

運転者から施設へ連絡が入る


看護師がすずのさんの状態を説明してほしいと


救急隊員から電話ですずのさんは「痛みもない様子。大丈夫と言っている。」と

報告があった


すずのさんは「はい」しか返答ができないこと、痛い・苦しいは伝えることが

できないほど認知症がかなり進んでいることを伝え、搬送をお願いした


最後にやっと搬送してもらえた

後日、胸部にシートベルトによる圧迫でできた内出血痕ができていた


認知症が進んでいても、見た目でわかることではないため

伝えることの難しさを運転手や、電話で話した私も実感した出来事


















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