第11話 15分おき

全身をがんに侵されて、痛みがあるはずなのに

一度も痛いと口に出さなかった実習で担当になった惠さん


80歳を超えて、体調がすぐれないと受診してそのまま入院となったと笑って話される


家族から、本人には本当の病名は言わないで欲しいと主治医へお願いし

検査入院と説明を受け、「どこも悪いところはない、歳です」と言われ信じていた


我慢強くて、最後まで痛い、苦しいなんて一切言わなかった


自宅へ帰ると言い、自宅退院

自宅では寝たきりで過ごされた


実習中「15分おきに来てね」と実習の2週間、私を待っていてくださった

自宅退院の時、私の連絡先を教えてと言われ、禁止されていたが内緒でお伝えした


数日後、ご家族からの連絡

おばあちゃんがどうしても会いたいと言っているから来て欲しいと


週末にご自宅へ伺った

泣いて喜んでくださった 孫と同じくらいの年代だから でも、男孫だから

女孫ができたみたいで、うれしかった だから会いたかったと


その頃に、訪問看護なんてあったのだろうか・・・当時の私は知らなかった

痰がからんで苦しそうだった

ガーゼで取れるだけ拭ってみたけれど、吸引器があったら・・・病院にはあるのに

何もできない自分がもどかしかった


それからまもなく旅立たれた

最後まで、がんであることは知らずに旅立ったとご家族から知らされた


後にも先にも自分の連絡先を渡したのは、惠さんだけ

当時は、知らずに旅立たれてよかったと思っていた


今になってみると

惠さんは絶対にがんであることはわかっていた

痛みは口にされなかったけれど、痛みは絶対にあった

内緒にしている家族の為に、知らないふりをして、家族の優しさにこたえていたと


今になってわかったこと

今だからわかること




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