第36話 まさか・・・ 8
本当は文句を言って罵ってやりたいところだったけど、胎教に悪い事このうえないよね。
それに、もはや呪いとなってしまったあの言葉を私は結局引きちぎることができなかった。
駄目になる確率が高いのなら、せめて家族には、存在を早く知っておいて欲しい。
家に帰った私は、夕方、仕事に行く前に子供たちに新しい家族の誕生を伝えた。
気がかりだったのは、末の娘だ。
「下の兄弟ができると、みんなをその子に取られちゃって寂しくなるから嫌だ」
なんてことを常日頃言っていたものだから、ショックを受けてしまうんじゃなかろうかと心配していたんだけれど。
反応は予想を大きく裏切っていた。
話を聞いた瞬間、嬉しくて泣きだしてしまったんだ。
他の子供たちは予想通り、二度見ならぬ二度聞き(?)でかなり間の抜けた素敵な反応。
翌朝・・・というよりももはや昼。
休日の朝寝から目覚めた私の横で、娘二人が何やらパソコンを広げてコソコソやっている。
笑われてしまうだろうけど、この時私は少し慌てたんだ。
だって下手をしたら、前日に書き途中の18禁小説がオープン状態になっていたかもしれないんだから。
家族にも周囲にも、全く隠していないとはいえ、さすがにお子様には少しばかり早い。
「おい。勝手に開くとやばいの出るぞ・・・って、何してるんだ?」
つたない手つきでポチポチとなにやら必死で検索している様子の彼女らに思わず問いかけると、目を輝かせてこちらを振り返った。
「ねえ!妊娠中は、ストレスが一番駄目なんだって。お父さんはもっといっぱい母を可愛がるべきだね!」
「だね!全く足りないね」
「お、おう。・・・そうか」
いつも私を限りなく甘やかしてくれる子供たちだが、これはさらに拍車がかかったみたいだ。
買い物なんかも、もともとどこに行くにも一人は危険だからと必ず誰かひとりは付いてきてくれていたんだけど、今度は小さな荷物一つ持たせないよう気遣ってくれるようになってしまった。
食事も私の作る、これ以上ないほど酷い料理では身体に全くよくないのだと言って(真実とはいえ失礼な!)いつも以上に心を配って作ってくれる。
「これはもう、心臓も止まっている場合じゃなくなっちゃったね。死ねない理由がまた増えたね」
満面の笑みでそんなことを言ってくる末娘は恐ろしく愛らしい。
・・・・・・けれど、私はやはりへなちょこだったんだよね。
それに、私の悪い予感というのは100%外れたことがないんだ。
こんなにも大切にされていたのに。
私は守り切れなかった。
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