第19話 意地悪はよくないよね 1

 さて、話は少しだけ変わるけれど。

 私の通っていた小学校は、今考えるとあまり質の良い環境ではなかったから、いじめやなんかも当たり前のように横行してた。


 そして私は、どうもそれを放っておくことができない質だったんだ。


 だって、誰かが嫌がらせをうけているのを見つけちゃって、それを見ないふりなんかできないよ。

 胸の奥が凍り付いて、夜眠れなくなっちゃう。


 そんなわけで自分の気持ちの赴くまま好き勝手に過ごしていた私は、学生時代全くケンカが絶えなかった。

 間違ってると思えば教員にだって平気でパックリ噛みついていってたんだから当たり前だ。


 ちなみに、ここで私がいう間違っていることというのは、自分にとっての正しさを外れたことという意味だ。

 残念ながら、優等生的な意味合いのものではない。


 校長室前の池で錦鯉を釣り上げてこっぴどく叱られる・・・そんなようなことばかりしていた私が、風紀や品格なんて口にしたら笑ってすらもらえないだろう。


 今の時代では考えられないことだけど、当時はむしり合いのケンカなんて日常茶飯事だった。


 互いに痛みを知っている者同士だったからなのか、大けがをするような殴り合いにはならなかったけれど、一度始まってしまえばその戦いは静かで激しい。

 どちらかが痛みに音を上げるまでは絶対に収まらないんだ。


 小学校時代。

 私のケンカの要因は大概が高学年の子の低学年に対する意地悪だった。

 無理矢理持ち物を交換させられたとか、遊び時間に人気の遊具を使うために並んでいた小さい子の列に高学年の子供が脅して割り込んだとか、そんな些細なことだ。


 こんな小さな現実すら見向きもされず、笑顔の外に弾けだされてく・・・。


 子供のころなんて、大人と違って心が色んなことに慣れてないんだ。


 赤ちゃんのほっぺみたいにふわふわの心を抱えた小さな子が、でっかい相手に凄まれて抵抗なんてできるわけがない。

 ちょっとしたことにも心が跳ね上がっちゃうんだから。


 私は休み時間というとだいたい虫取りなんかに出かけていたから、そんなささいな問題が起こる度、友人たちがこぞって探しにきた。


 蜘蛛の巣だらけになりながら植え込みから出てきた私は友人に連れられ、問題の真っただ中へと飛び込んでいく。


 相手から姿が見える前に、呼びに来てくれた友人たちからしっかり距離をとる。

 皆は構わないって言ってくれるけど、もし姿が見えてしまえば、誰が私を呼びにきたのか分かってしまう。


 よほどの相手じゃない限り、火の粉を被るのは私一人いれば十分に足りる。


 一緒に火の粉を被ってみんなで転げまわるより、燃え移った火を消してくれる優しい手がたくさんあってくれた方がいいに決まってるんだから。


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