第17話 友 2
私から彼らを引き離したいと母が思うのは当然だった。
なんといっても母は、私に極めてしとやかに上品に育って欲しかったんだからね。
結局、どうにかしてこのやんちゃな友人たちから私を引き離したい母は、近所のママ友に相談して、その娘と私を家の中で大人しく遊ばせようとしたんだけど。
これがまた、私には実に難しいことだった。
なんたって、どこをどうすれば人形で楽しく遊べるのかなんて、これっぽっちもピンとこなかったし、ママゴト遊びなんていうのもさっぱりわからなかったんだ。
今でこそ(楽しい云々は別として)その時どうすべきだったのかはわかるよ。
だけど残念過ぎることに当時の私には、全く理解なんてできなくて、ただ混乱することばかりだった。
結局、人形は関節やらビニール製の髪の生え方なんかが気になって服をひんむいてバラバラにしちゃったし、ママゴト遊びもただの泥遊びに変えちゃったんだ。
ママゴト用のピンク色の小さな茶碗もダンゴムシ族専用の箱舟と化してしまったものだから、二人で上手く遊んでいられるはずがない。
目論見が見事に失敗した母は次に、私をピアノ教室へ通わせ始めた。
これがまたまた、私には苦痛だった。
なんと言ったって、私は鏡面反射症という妙な障害の主。
右手の指と左手の指をバラバラに動かすのが難しいのに、ピアノなんて・・・一体どうしろっていうんだ!?
利き手と逆の手を使って箸で豆をつまみ茶碗に移すような・・・。
そんなムズムズしてどうにも苛つく感じの練習をひたすら繰り返すなんて・・・背筋がぞわぞわしちゃうよ。
ピアノの稽古の度に、本当は思い切り叫んで飛び出しちゃいたかった。
結局全く上達しないまま、それでもやっぱり母のがっかりする姿は見たくなかったし、母が私に対して静かで利口であって欲しいと思うのは、きっと私の将来を想ってのことなんだって分かりきっていたから。
かなり長い年月の間、大人しく通い続けた。
ピアノといえば、もう一つ心から勘弁して欲しかったのは、発表会。
私は人前で酷く緊張する質だし、そもそも着飾るのなんてまっぴらごめんだった。
母好みの可愛らしい普段着を着るのでさえ気持ちが沈み込むっていうのに、ドレスなんて着たら頭がくらくらしちゃうでしょ。
そんなわけで、発表会当日。
どうしても耐えられなかった私は、忘れたふりを決め込んで、いつもの仲間と田んぼに出かけてカエルをとっていた。
本当に忘れてしまって遊びに集中できたらよかったのに、母の顔が頭をちらついてどうしようもない。
「ねぇ。・・・
ぞっとするような不安を上手く隠せているつもりだった私に、『みっちゃん』と呼ばれている薄茶色の柔らかい髪の子が、前触れもなく声をかけてきた。
気づけばすっかり皆で集まって私を見つめてる。
みっちゃんときたら、少しひんやりした手で私の頭の上に手を乗せポンポンと撫でてきたりするものだから。
私の胸にはすぐに熱い塊がどっとこみ上げて、あっという間に涙が堰を切ってしまった。
この連中は変に鋭くて、私の隠し事も本音もすぐ見破ってしまうんだからたまらない。
結局、何も言葉にできずひたすらでっかい涙を落としている私を、彼らは余計な事なんて一言も口にしないで、背負って家に連れ帰ってくれたんだ。
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