第13話 新たなる祖母の奥義 6
軽率だった自分へのふがいなさと、祖母への強烈な怒りが心の奥で酷くぐずりかけているけれど、そんなくだらないことより今はもっと大切にしなきゃならないことがある。
私の不器用な正義が妹たちを酷く傷つけ、母と父を巻き込んでこんなことをさせちゃってるんだから、これ以上の一大事は他にあるはずがない。
凍えるような震えが身体の芯からひたすら湧き上がってきて、指先がどうしようもないほど震える……。
俯いて見つめた指先は、緊張からか、白を通り越して、薄い青灰色になっていた。
「・・・わかったから。・・・あの人の気が済むなら何でもする。だから、それはやめて。」
大好きな母と父が頭を下げるところなんて見たくもないよね。
ましてや自分なんかにさ・・・・・・。
結局私は祖母の部屋の襖をあけ、彼女の前で畳に額をこすりつけるように低く低く頭をさげ謝罪の言葉を口にした。
ドロドロと尋常じゃない勢いで、たぎるような熱と凍り付くような冷たさがせめぎ合い、胸の奥でぐちゃぐちゃになって渦巻いているせいで、身体の感覚を感じる余裕なんて全くない。
それなのに、何かが激しく砕け散る音が胸の奥で響いたようなきがして、そこだけがぐずりと酷く痛むんだ。
奥歯を強く噛みしめたまま、涙をあふれさせ頭を下げ続けていると、祖母は猫なで声で優しくさとしてきた。
「この家は誰のもんか、言ってみろ?な?・・・・・・意地なんてはるもんじゃない。例え黒いもんだったとしても、オラが白だと言えばこの家では絶対に白なんだ。もう二度と逆らうんじゃない。」
「ごめんなさい。もう、二度と逆らいません。」
頭の中で羊の数を数えて気を紛らわせながら、それでもどうやったって拳に力を込めずにはいられなかった。
妹も、母と父ももちろん大事だよ。
それに、自分の正義を力任せにぶつけた結果が、彼らを巻き込み、酷く傷つけてしまったことは理解してた。
だけどそれでもさ・・・・・・。
実際の私の気持ちは、全くついてきてなんかいなかったんだよね。
もちろん、危うくはみ出しそうになってる本音をそのまま吐き出すことなんてできるわけがない。
口を突いて出そうになる、「クソババア」という、ひたすら品の無いだけのただの悪口を、無理やりごくりと飲み込んだ瞬間。
カチカチ山のウサギが狸の火傷に辛子味噌をすりこむみたいに、祖母がしっかりと追い打ちをかけてきた。
「あぁ、そうだ・・・。京がオラを怒らせたもんだから、妹らぁがお前の代わりに痛い目をみたぞ。迷惑かけたんだから一人ずつよく謝っておけな。・・・・・・それから」
そこまで背筋におぞけが走る甘ったるい声で語り掛けていた祖母が、突然眼光を鋭くした。
まるで道理を知るしっかりとした大人が、幼い子供の犯した悪行を叱るような口調で続きを口にする。
「子供が親に頭を下げさせるもんじゃない。お前は思いやりがないうえ、人としての道理ってものも知らない、本当にろくでもない人間だな。お母さんとお父さんにしっかり謝って、感謝しとけ。」
「はい・・・・・・。すみませんでした。」
緊張を解く「人」の文字のかわりに、無数の「ババア」文字を心の中で密かに書き殴りながら、幼い私は脳が焼ききれるほどの無念さと、父と母に対する申し訳なさに、さらに奥歯をきつく噛みしめていた。
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