第56話
「ねぇねぇ〜、お嬢ちゃんはさぁ〜、いつからここでバイトしてるのかなぁ〜?」
「三日前くらいです。突然店長の方からご指名を受けまして、最初は乗り気にはならなかったんですけど、仕事終わりにケーキをくださるとの契約を結び、承諾しました」
「へ、へぇ〜。そうなんだぁ〜。ところでさぁ〜、このあと時間あるかなぁ〜」
「このあとも仕事です」
「そ、そうなんだぁ〜。な、なら、仕事終わりにでも一緒にお茶でも……」
「仕事が終わり次第、家に帰るようにと両親に言われておりますから、あなたとのお茶は拒否させていただきます。すみませんね、過保護な親でして」
何度見ても変わることのない光景。長蛇の列。しかもほとんどが男性。
レジには僕のよく知っている女の子が接客をしていた。金城音葉……彼女が僕のバイト先のレジに、なぜかいる。意味わかんねぇ……。
しかもよく見ると、確かに店長の言っていた通りである。女性客がまさかここまで減っているとは。しかしこれほどまでに激減してしまったのが僕の責任ということになってしまうと、それこそ僕を説教するはずだろ。
何も怒らず、それどころか諭されてしまった。
もう訳わからん。何も理解できない。
「おい、店の前で何してる」
「店長……」
「やーい、営業妨害男め。さっさと着替えてレジに行きなー。金城ちゃん一人で、あれを片付けるのは至難の業だ。全く誰のせいで……」
「すぐ行きます……!」
電話の時に言っていた気がするけど、またここで店長に言い、店の裏口からバイト専用ロッカーに行った。
店の入り口にはぎゅうぎゅうに敷き詰められているような人の入りで、開放される気配もなかったため、即座に裏口という選択肢を選んだ。というか、何でこんなに人が多いんだよ。
営業妨害だのなんだの店長が僕に対して言っていたが、まあ、営業妨害っぽいことをしていたのは確かだとしても、決してお店が潰れそうになるほどのことではなかったはずだ。まず今この状況。僕がいた時よりも多いように感じる。入り口が空いてないし……。
それに女性客がいなくても、こうやって並んでいる男性客のおかげで売り上げは高いはずだろ。絶対に赤字にはならないと思うぞ。むしろ儲かるって!
とにかく僕はレジに行き、早急に仕事をしなければならないのであった。金城さんのサポート、及び店長への謝罪、そして貢献。これらのために、僕はレジに行く。
「うわ、すご……」
マジで長蛇になってる。てか、レジに人来すぎだろ。少しは散らばれよ。
コーヒーを飲みに来たのでもなく、ケーキやスイーツを食べに来たのでもなく……まさか、この男たちは……。
レジで頑張っている金城さんを一眼見ようとしているだけか……!
「早く行かなきゃ……!」
レジに行った。
「デュフフフ……。ね、ねえねえ……。き、君はさぁ……、どこの学校の生徒なの……? こ、高校生だよねぇ……?」
「すみませんが、当店ではそのような質問に受け答えすることができなくなっておりますので、返答は控えさせていただきますね」
「そ、そんなこと言わずにさぁ……。ねえねえ、どこの……」
「んもぉ……。しつこいですねぇ……。本当に怒りますよ? 店長にも言いつけることも可能なんですよ?」
「フヘヘヘェ……。お、怒ってみてよぉ……」
金城さんが迷惑そうな顔をしている。
さて、ここは僕が……。
「んぅ……。しつこい……」
「フヘヘヘ……。って、誰なんですあなた?」
「すみませんが、当店ではそのようなサービスを行なっておりませんので、お引き取り願います。どうしてもというのなら、道路を挟んで向こう側にありますメイド喫茶にでも立ち寄っていただければと思います」
突然の登場のため、その客や横にいる金城さんが戸惑う。目を大きく輝かせて、僕を見る金城さん。
「う、うるさいなぁ……! 今はこの女の子と話してるんだぁ……! じゃ、邪魔するなぁ……!」
「だからそういうサービスは行なってないんです。この子はレジ打ちのバイト。注文したなら早く席でも確保してください。後ろが並んでいるので」
「ぐぅ……!」
「お客様が長時間話をしていたものですから、後ろからの殺気を帯びた視線が、現在あなたに集中しておりますよ?」
「ひ、ひぃ……!」
怖がったのか、それ以上その場にはいずにすぐさま離れていった。全く……。後ろが並んでいるんだから、少しは考えてほしいものだ。
「あ、並んでおられるお客様はこちらのレジでも接客いたしますので、どうぞご利用ください」
僕がそう言うと、少なからず並んでいた男性客がこちらに流れてきた。金城さん目当てで着てるものだとばかり勘違いしていたが、ただドリンクを購入しに来たお客様もいたらしい。しかし依然として金城さんのレジには並ぶ人が多い。
「大丈夫、金城さん?」
「……」
あれ? さっきからずっと僕の方を見てるけど……。目を大きく見開いたまま、静止状態。何も動かずに、ジーッと見ているだけ。
「あ、あの、金城さん?」
「オタクっち……?」
「ん? ああ、うん。そうだよ?」
ガバッと、柔らかい感触。温かい感触。
金城さんが抱きついてきたのだった。
先ほどの男性客の殺意を帯びた視線は、一斉にターゲットを変更して、僕の方になってしまう。
マズい……。
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