Secret Garden

@kiriti

第1話

VRMMORPG。


 その言葉が小説などで題材にされ三十年以上の時が過ぎた20××年、日本に本社を構える世界的にも有名なゲーム制作会社であるGX社が開発した、とあるゲームが世界を変えた。


 今まで専用のヘッドホンによる視覚、聴覚によるゲームへの没入感を高めたタイトルは数多く存在したが、そのどれもがお世辞にも大ヒットと言えるような代物ではなかった。

 理由の多くを占めたのが、視界と肉体の感覚の齟齬である。視界では動き回って大迫力な映像が流れているにも関わらず、体はほとんど動かしていないという状態に激しい酔いを感じる人々が多発したからである。ゲームの内容自体もこれといったものがなく、人々は次第にVRゲームを意識することは無くなっていた。


 しかし、GX社が開発し、満を持して発表したVRMMOゲームは五感すべてを網羅しており、完全没入型ゲームであった。そしてそのGX社がゲーム機本体と同時に一つのゲームタイトルを発表した。


『Infinity of The Life』


 世界中でほぼ同時にプレゼンテーションされたそのゲームは国や宗教、人種に限らず誰でもどんな人間でも平等に何にでもなれるもう一つの世界。

そう銘打たれたゲームのコンセプトに「地球上には存在しないもう一つの世界」である。


 それは、一億人以上が同じサーバーにつなぐことが可能であること。

 当時すでに存在した多言語同時翻訳システムをほぼ完ぺきな状態で組み込まれており、世界中の人たちの言葉を即座に自分の設定した国の言葉に翻訳してくれること。


 人々は国境の壁を越えて、このゲームの発売を心待ちにした。


 消費者の期待を煽りに煽って発売されたそのゲームは、お値段が日本円にして十五万円を超え、家庭用ゲーム機としては異常な値段設定にもかかわらず、初回生産の十万本が僅か五分で完売した。


 そして運よくゲームを購入することができた幸運なユーザーは、即座にゲームにログインし、キャラクター制作画面で選べる種族の多彩さに驚かされる。

 人間はもちろん、エルフやドワーフ、それにゴブリンやオークといった敵モンスターすら選択可能であった。

 そして自分だけのキャラクターを作って飛び出したプレイヤーに待ち受けていたのは 細部にまでこだわりつくし、現実とほぼ変わらない美しさで描かれた広大で美しい世界であった。


 そこで人々は確信する。


 これこそ俺たちが夢にまでみて待ち望んだVRMMOである、と。

 無限の可能性に、無限の世界。

 そのゲームに人々が熱中し、世界的な大ブームになるのにそう時間はかからなかった。



 それから三年の月日がたった現在、『Infinity of The Life』以外にも様々な没入型VRMMOゲームが発売されたが、後続が先駆者を上回るのがこの世の常という言葉を覆すかのように、未だにVRゲームユーザーランキング一位の座を守り続けていた。


 そんな『Infinity of The Life』にはとある噂がまことしやかに囁かれていた。


 重課金者しか入団を認められない『Infinity of The Life』最強のギルド「THE FIRST」。彼らが半年以上の準備期間を経て、二百人以上のプレイヤーを動員し、攻略した当時『Infinity of The Life』最難関のダンジョン。


 その最下層のボスを倒し、ダンジョンを最初にクリアした者達が刻まれる石碑に彼らの名前が刻まれることはなかった。

 なぜなら……、そこにはすでに別のプレイヤーの名前が刻まれていたのだから。


 構成人数僅か三十三名の超小規模ギルド『Secret Garden』。


 その日を境にその名前は世界中に知られることとなった。

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