第4話
到着した先は、一軒の民家の庭先だった。
「よし! ここまでは予定通りだ!」
タイムマシンは過去や未来へ移動する装置であり、空間的な位置を変えることはできない。だから、ここもトオヤマ時間研究所のはずだった。
しかし今、あの寂れた町工場のような研究所の姿はない。昭和のホームドラマに出てくるような、あたたかいイメージの民家が建っているだけだ。
それもそのはず、今はまだ研究所が設立される前の時代であり、目の前の建物は遠山博士の生家だった。
太郎助手にとって遠山博士は養父に当たるので、書類手続きで彼の生年月日を記入する機会が何度もあり、すっかり覚えてしまっていた。
また、何かの折に遠山博士が「助産師を呼んで、病院ではなく家で生まれた。私の時代は、そういう出産も多かったのだ」と言っていたのも、記憶に残っていた。
おかげで太郎助手は、遠山博士が生まれたその日その場所へ、こうして辿り着けたのだ。出産でてんやわんやの一軒家へ忍び込むことは、それほど難しくなく……。
目的を果たした太郎助手は、急いでタイムマシンへ戻り、帰路につく。
時間移動が始まると、また同じだった。体に伝わる振動や、おかしくなる視覚、ピリッとした頭痛などで気分が悪くなる。
だが、あらかじめわかっていれば、少しは対処のしようもあった。気を紛らわすために、太郎助手は目を閉じて考え事に没頭する。
「実の父親じゃないけど、一種のエディプスコンプレックスだったのかな……」
自分の中にある、遠山博士に対する嫌悪感。あれはエディプスコンプレックスの概念で説明できるかもしれない、と思うのだった。
父親に関する記憶がないために、本来ならば父親に対して抱く対抗心が、親代わりだった遠山博士へ向けられたのではないか。遠山博士自身、人に好かれるタイプではなかったけれど、エディプスコンプレックスがあった分、彼に対する憎悪が増していたのではないか。
「そうでもなきゃ、あんなことしたんだから今頃、もっと罪悪感を覚えるはずだよな……」
わざわざタイムマシンで過去へ行き、太郎助手が
生まれたばかりの赤ん坊を手にかけてきたというのに、太郎助手は、全く心が痛んでいない。自分でも驚くくらいだった。
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