第11話

 そのころ、ルナとデリアが魔法の打ち合いを始めていた。


「ブラック・サンダー!」


「ライジング・グランド!」


デリアは黒い雷を放ち、それをルナは地面を隆起させ守る。


「中々やりますわねではこれはどうです!」


デリアは呟くように高速詠唱する。


「クトゥルフ・サモンズ」


詠唱が完了すると、デリアの周りに黒い沼のようなものが出現した。そして中からおよそこの世の物とは思えない生物の触手がルナに向かい飛び出した。


「なっ!?」


触手がルナの四肢に巻き付き、宙に持ち上げる。身動きはとることができない状態だ。


「捕まえましたわ。これで最後にしてあげます」


そういうと、さらに触手を出現させ、ルナを殴りつけようとした。


「甘いですね。エクステンシブ・アイス!」


極寒の冷気が広範囲に包まれ、ルナに巻き付いていた触手が一瞬で凍りついた。


「地属性の魔法使いではなかったんですの!?」


凍った触手を割り、ルナが脱出する。


「そこが甘いんです。私は一言も地属性しか使えないとは言ってません。」


「あなたもあのクリスタと同じ天才なのね」


「私の場合は師匠が一つの属性にこだわらない魔法使いだったので」


「でもすべての属性を使いこなせる人なんてそうはいないわ。私はあなたたちみたいな天才が憎いの。だから苦しめて殺してあげる!!! うっ……ガ八ッ」


突然デリアが血を吐き、よろめいた。


「やっぱり本にあった通り本人の命を吸い取る代わりに発動する魔法だったようですね。ちょっと! もう魔法を打つのはやめてください! 死んでしまいますよ!」


「うるさいうるさい!! こうなったらこの街もろとも消してあげる!!」


デリアは上級魔法の詠唱に入った。台風の様な風があたりに立ちこみはじめ、黒い雷、まがまがしい雰囲気が立ち込める。デリア自身は全身から血を流し、今にも壊れてしまいそうだった。


「ルルイエ・スペルブック!!!!!!」


詠唱を終えたデリアは倒れ伏した。そして、何者にも例え様のない、見ているだけで吐いてしまいそうな容姿の生き物が出現した。


「こ、これがわたしの命と引き換えに召喚した大魔法、ルルイエ・スペルブック。一度出現させたらもう誰にも止められないわ。これ何もかも終わりよ! すべてなくなっちゃえばいいわ!!」


「どうすれば……こいつ、全く動かない。もしかして、まだ召喚されきってないかも。チャンスは今しかないですね。しかし」


ルナはあたりを見渡す。今までの戦闘と、ルルイエ・スペルブックによりあたりの建物は倒壊していた。住民は避難しているようだった。


「ここでやればさらにこの街が破壊されてしまいますね。どこかに移動しなければ」


ルナは移動先の候補は作っていた。パルスから少し離れた砂地の荒野だ。


「後はどうやってこいつを移動させるかですね。デリアさん。見ててください。これが私、ルナ・エスティアの魔法です」


「エスティア!? あなた、もしかしてエスティアス村の」


デリアがしゃべる前に、ルナの詠唱が完了した。


「アンチグラビディ!」


怪物が宙に浮いた。


「重力魔法!?」


そのまま怪物は荒野まで飛んでいき、そのまま落下した。


「このくらい離れていたらいいでしょう。さあ、仕上げです」


ルナは上級魔法の詠唱に入る。


「これは爆発系の最上級魔法、エクスプロージョンのその先。私と師匠で完成させた可能性の果ての先です。見ててください。黒魔術を使わなくても魔法はここまでできるということ、そして努力の先を!」


ルナの詠唱が完了した。


「ニュークリア・エクスプロージョン!」


瞬間あたりが何も見えなくなるほどの光に包まれた。その後遅れて爆音、爆風がルナたちに届いた。パルスから離れていたため街に影響はなかったが、周りの地形が変わってしまっていた。奥にはとてつもなく大きなきのこ雲が上っている。


「流石に立っているのがやっとですね」


ルナは杖をつき何とか立っている。


「デリアさん。これで勝負あり、ですね。デリアさん? デリアさん!?」


デリアはかろうじて息はしている状態だ。


「早く回復術士の所へ行かないと!!」


ルナはふらふらになりながらもデリアのもとへ駆け寄っていった。






 ルナの魔法による爆発音は、戦闘に巻き込まれないと避難していた住民を驚かせた。しかし、街に二人、爆発音を一切気にも留めなかった人がいた。それは、


「シャアアアアリャアアアア!!!」


「キエァアアアアアアアア!!」


詩音とフェイロンだった。


「ハアッ!」


詩音は突きを繰り出す。フェイロンは突きを両手でからめとり、詩音の体制を崩させた。そして出来た隙に攻撃を繰り出す。


「シャッ!」


鼻、顎、頬、計三発が詩音に直撃する。しかし音が違う。例えるなら拳銃の発砲音の様な、ともかくパンチではなるはずのない爆音が響いた。詩音はあまりの痛みにすかさず距離をとる。


「おお……痛ぇ。鼻が曲がっちまってる。これが幹部の実力……」


「私からすると失望していますよ。あれだけ息巻いていたんですから、てっきり実力者なのかと思っていましたが。さあどうです、実力の差を知って絶望した顔を見せてください!」


だが、詩音は笑っていた。


「失望させちゃったかぁ。すぐに全力を見せなかったことは謝るよ。ちゃんと実力見せるから、そっちこそすぐ死んだりすんなよ?」


「言ってくれますね。その表情、すぐに絶望と恐怖の顔に変えてあげますよ!!!!」


二人の間が再び強い圧に包まれた。




「クリスタ、疲れてないか?」


クリスタと一緒に逃げていたクレアはある程度逃げたところで休憩していた。


「疲れたに決まっています!」


「まあそうだろうな」


「怒りますよ?」


「も、もう怒っているではないか。それより、ここまで来ればたぶん大丈夫じゃないか?」


「はぁ。まあ、そうですね」


「残念だな」


突然、黒いローブの男が出現した。


「誰だ!」


クレアが叫ぶ。


「俺はハスター。魔王軍の幹部だ」


「なんだと!?」


「その金髪の女は俺の契約者の狙ってるやつだったな。あの女、負けたようだからな。最後のサービスでお前を殺してやろう。クトゥルフ・サモンズ」


クレアたちの周りを埋め尽くす大量の触手が出現した。


「俺は帰る。せいぜい生き延びることだ」


「ま、待て!!」


ハスターは姿を消した。


「ど、どうするんですか!?」


クリスタは不安そうに尋ねる。


「私もいっぱしの剣士だ。守ると決めたものは死んでも守る。クリスタ、心配するな。私が守り抜いて見せる」


クレアは剣を抜き、大声で叫んだ。


「さあ、化け物ども。行くぞ!!!!!!!」


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