第6話
詩音とルナの安否を確認したクレアは剣を握りなおした。
「はあああああああ!」
クレアは再度攻撃を試みるべく、ドラゴンに突撃していった。
「はあッ!!」
剣を大きく半円を描くように振る。しかし、またも鱗に阻まれてしまう。
「やはりだめか。いや、腹ならどうだ。腹なら剣が通るかもしれない!」
クレアはドラゴンの腹部を狙おうと、さらに剣を振りかぶる。しかし、振りかぶったときにはドラゴンの反撃が向かってきていた。
「クレア!!!!!」
詩音がカバーに入ろうとするが時すでに遅く、クレアは吹き飛ばされてしまった。
「クレア! 大丈夫か?」
だが、クレアはモロに食らった割には全くダメージが無かった。
「ああ、大丈夫だ。しかし、剣が全く効かぬ。腹ならと思っても懐に入る前に攻撃が来る。一体どうすれば……」
「落ち着け。俺が行くからクレアは下がってろ。相手の腹に決めればいいんだろ。やってやるさ」
「いや! 私はまだ戦える!」
「さっき一発でかいのを食らってるんだ。いいから休んでろよ」
「だが」
「任せろ! 俺が何とかしてやる」
詩音はそう言うと、ドラゴンに向かい走り出した。
「右京さん! 援護します! デュアル・アイス!」
ルナは魔法を唱え、ドラゴンの足の周りを凍らせた。
「足止めはしました! やっちゃってください!」
詩音は尚も走り続ける。
「右京さん! ブレス来ます!」
ドラゴンは近づかせまいと火炎を吹く。詩音は大きく跳躍しこれを躱す。そのままドラゴンの頭部に、正確には眼に向かい飛び蹴りを放った。
「シャラアァァァ!!」
足の親指を突き出し、ドラゴンの眼球に突き立てる。目をつぶされ、痛みに悶絶している隙を狙い懐に潜りこんだ。左足を前に半身の姿勢をとり、左手を前、右手を腰に構える。
「島原流、
両足で地面を踏みしめ、勢いよく右こぶしを突き出す。ドラゴンの腹部に触れた瞬間ほんの一瞬拳を遅らせ、再度突く。すると拳のめり込んだ所を中心に波紋が広がった。
「グゲボァァ!」
ドラゴンは吐血し倒れた。
「や、やった。やった! ついに倒したぞ! 右京! お前というやつは!!」
「な? いったろ。何とかするって。」
「ああ、本当に何とかしてしまったな、お前は」
詩音とクレアはともに勝利を喜んでいた。しかし、ルナは違った。
「クレアさん。」
「ん? どうした? いや、お前もすごかった。あの魔法で足止めをするとは」
「そうではなくて。あなた、どうしてこのクエストを受けようと思ったんですか? しかも最初は一人で行こうとしてましたし。何かどうしてもこのクエストを受けなければならない理由があったのですか?」
「いや、だから強い敵に会うために」
「本当ですか?」
「まあまあルナ、落ち着いて。けど、確かに俺もそれは思った。気を悪くさせたら悪いが、戦い方をみてて、強さは感じられなかった。攻撃を受けても大丈夫なくらい丈夫ってこと以外は、到底一人でドラゴンなんか倒せないだろ。何か本当の理由があるのか? 嫌じゃなければ教えてほしい」
詩音が尋ねると、クレアは申し訳なさそうな、そして少し落ち込んでいるような態度になり、ポツポツと理由を話し始めた。
「剣士の名門だとあれだけ豪語していたが、実は私は兄妹の中でも才能がないと言われているんだ。父上も母上も私にはなんの期待もしてくれなかった。兄上たちは私を馬鹿にする。だからドラゴン討伐をすれば少しは認められるのではと思ったのだ。私の勝手な事情に巻き込んでしまい申し訳ない」
クレアは深く頭を下げた。
「顔を上げろよ。俺たちに本当のことを話してくれてありがとう。きっかけはあれかもしれないが、今はパーティーメンバーだ。仲間なんだ。だから俺たちを頼ってくれ。俺たちもクレアを頼りにしてるんだから」
「頼ってもいいのか? 私は私の強さを見せつけなければならない。だが右京たちを頼るのはどうなんだろうか」
「だからって一人で挑んで死んだら元も子もないだろ。それに仲間を頼って頼られて、一緒に困難に立ち向かうのも立派な強さだと俺は思う」
「解かった。では遠慮なく頼らせてもらう。貴様らも私を頼ってくれ」
「はい。クレアさん。これからもよろしくお願いしますね」
「一件落着ということで。帰ろっか」
「ああ」
「はい」
三人は証明の為にドラゴンの片眼を持ちかえった。
帰路の途中、
「ルナ、ちょっといいか」
「どうしました? クレアさん」
「いや、本人に言うのは何だか照れくさいので言わないが、右京はとても優しい男なのだな」
「ええ、そうですよね。かっこいいですよね」
「ああ、本当にな」
「え?」
「は?」
「く、クレアさんて右京さんに対してそんな感じでしたっけ」
「いや、さっき思ったのだ」
「…………絶対負けませんから」
「いや、なにに負けるのだ」
ルナに無自覚なライバルが出現した。
王都前に二つの塊ができていた。一つは街の冒険者たちの集団、もう一つは………………
「オークの大群が攻めてきたぞ!」
オークの群れの集団だった。
「帰ろうと思ったのになんか入り口付近に大きな人だかりができているんだが」
詩音たちは王都前まで帰ってきていた。
「なにかあったのかもしれません。行ってみましょう。」
三人は急いで人だかりの方へ向かった。
「何があったんですか?」
「あ! 右京さんたち! 戻られたんですね。実はオークの大群が王都へ攻めてきました! クエストの後でお疲れかもしれませんが、加勢してください」
「解かりました」
三人は人側の人だかりに加わった。
「なんのようだ!」
「やっちまうか!? お?」
冒険者たちがオークの大群ををあおる。するとボスらしきオークが先頭に出てきた。
「俺はオーク部隊のボスをしている。ここには俺の部下を殺した奴を探しにきた」
「「あっ」」
それを聞いた詩音とセシルは同時に声を漏らした。
「なんだ、お前らがやったのか」
詩音は出るしかないと思った。
「俺がやった。でもそっちだってセシルを襲ってたし、そんなのお互いさまじゃないですか?」
詩音は早口でまくしたてた。
「そんなことは知らんな。お前がやったのだろう。なら後悔させるためにあの街を攻め滅ぼそうか。」
「なんて理不尽な……よし、ならこうしないか。お前と俺でタイマン張れ。それで決着をつけよう」
「右京さん!」
ルナが心配して名前を叫ぶ。
「お前とタイマンを張ったところで何になるのだ。そんなことはせんわ。お前たち、街を滅ぼしてしまえ」
「ビビってるんだ」
「は?」
オークのボスは明らかにキレていた。
「俺と戦うのが怖いんでしょって」
「ふん。そんな安い挑発には乗らんが、面白い。そのタイマン。受けてやろう」
「そうこなくっちゃ」
そういうと、両者は構えをとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます