1-16 覚悟と傷と
さて、それから約二週間、自分が迎えた放課後の時間はとても鮮やかで、図書室に行っても喫茶店に行っても自分を迎えてくれる人が居る。その光景が約二週間経つうちにいつも通りの光景になっていた。
蕪木と友だち(仮)に成ってから丁度二週間後の今日も、街の喫茶店にていつも通りのオカルト研究部の井戸端会議。部長はクリームソーダを飲みながら先日見られた蝶について持論を展開し、万次郎は部長の持論を笑って受け流している。つまりは、いつも通りの光景だ。
いつも通りというのはどこまでも心地良いもので、忘れてはいけない痛みまで忘れさせてしまう。
対して蕪木は、蕪木だけはだけはこの二週間、ずっと考え続けていたのだろう。
「?」
ズボンのポケットに入っているスマホが震える。自分は取り出して画面を見ると、そこには蕪木わたの文字。
だらしなく上がってしまうそうな頬を手で押さえながら自分は部長たちに断りを入れ、店を出てから電話を取った。
「本多、今時間は大丈夫かしら」
「ああ、大丈夫だけど。電話って珍しいな」
「そうね……直接会っては話せないと思ったからよ」
蕪木らしくない弱弱しい声。その声が今から話されることの重大さを表していて、自分は身構える。
「本多、わたし、決めたわ」
「……何を、だ?」
「……紙を。想いを、過去に飛ばすことよ」
「っ」
カラフルな夢の中からモノクロの現実へと、突然引き戻されたような衝撃が自分を襲う。
高校三年生の未熟な精神では受け止めきれない衝撃だった。そのあまりに大きい衝撃は、自分の中で忘れていた痛みを思い出させる。
「…………」
「本多?」
「大丈夫だ。とりあえず、今は切らせてくれ」
強引だと分かっていた。
それでも今は蕪木の声を聞ける余裕なんて無くて、無理矢理電話を終了させた。
「っ」
傷が、痛む。
その場に
ああ、畜生。このまま忘れていられたなら、どれだけ幸せだったのだろうか。
後悔はない方が幸せだ。
脅迫(まがい)を蕪木にされたあの日、自分で言ったその言葉がそのまま自分へと跳ね返ってきて、二週間以上経った今、心に深く刺さっていた。
『今なら素直に気持ちを伝えられるのに』、エピソード.1 Funny END
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