聖騎士の癖にうっかり酒に呑まれて聖女様に手をだしてしまった場合
カラスバ
第1話 プロローグ
白銀の甲冑は脱いだ。
今はもうラフな格好に着替えている。
魔王軍の幹部ベルゼとの死闘を終え、俺達はとある酒場にて祝杯をしていた。
普段はこんな風にはしゃぐ事を嫌う勇者、ミナミも今日限りは酒を飲む事を許してくれた(本人は未成年と言う事で酒は飲んでいないが)。
とはいえ、勇者パーティーのメンバー全員がはしゃぐ事になれていないので、祝杯と言っても凄く静かなものだった。
みなみな好きなものを頼み、酒と一緒に胃袋の中に流し込んでいく。
やはり、一つ大きな戦果を挙げたという事で、みんな少しだけ肩の荷が下りたのだろう。
普段より間違いなくリラックスしているし、浮かれている。
だけど、今日ばかりは。
勇者ミナミも言っていたが、今日ばかりは羽を休めてゆっくりと時間を過ごす事を誰も咎めないだろう。
「ていうかさー」
そうしてゆっくりと食事を楽しんでいたところ、不意に戦士のニナが俺にしな垂れかかって来る。
どうやら相当酒が回っているらしい。
まったく、だらしがない。
勇者パーティーとして示しがつかないぞ。
ほら、ミナミも呆れたような表情をしてこちらを見ている。
そんな彼女の視線を気にせずにニナは続ける。
「クロード、あんた。イケメンの知り合いとかいないの?」
「……はぁ?」
「聖騎士団出身なんだしさ、イケメン紹介してよ」
「いや、どいつもこいつも頭の中に筋肉が詰まっているようなやつばっかだったが?」
「あんたも人の事言えないでしょうが!」
ははは、と盛大に笑う。
そして酒を流し込む。
酔っ払ってんな、見事に。
ただまあ、彼女が遠慮なしに酔っ払っているのは、俺達のパーティーに聖女、テレサ様がいるからかもしれない。
テレサ様の力に掛かれば酒気などあっという間に吹き飛ばす事が出来る。
二日酔いだって治せる。
……聖女の力をそんな風に使うとは何事かと騎士団長が聞いたらぶち切れそうだが、しかしかくいう本人は快く力を使っているのだから良いの、かも?
ちなみにだが、聖女様は飲酒を禁じられていない。
勿論浴びるように飲む事は本人自ら律しているのでそんな事はしない。
昔は禁じられていたらしいが、どこらへんかで今のようになったらしい。
歴史の不思議である。
「ニナ様、楽しむのはよろしいですが、流石にそろそろお酒を飲むのを止めた方が良いかと」
テレサ様が言う。
「あと、私のクロードにベタベタするのは止めてください。彼は私の護衛なのですから」
……
ああ、びっくりした。
護衛って意味か。
「私の」なんて言われて一瞬動転し掛けた。
「えー、良いじゃない。貴方達、別に上司と部下の関係ってだけで男と女の関係って訳ではないでしょ? なら、私がこいつ貰ったって良いじゃん」
「聖騎士団の誰かを紹介して上げましょうか?」
「今、私は、男が欲しいの!」
「はしたない事を叫ぶのは止めてください……」
「あんた達」
一触即発の状態になりかけた時、ようやくそこで果実のジュースを飲んでいたミナミが動く。
「酒は飲んでも呑まれるなって言葉、知っている?」
「ん?」
「……」
「ニナ、貴方は水を飲みなさい。テレサ、貴方はちょっと落ち着いて。あからさまに頭に血が上っているのが分かるわよ」
「それは――いえ、はい。分かりました」
テレサ様は渋々と言ったように頷く。
しかしすぐに冷静には戻らなかったようで、「クロード、今日は帰ります。付いてきてくれますよね?」と俺に指示してくる。
「ちょっと、テレサ?」
「先に宿屋に戻るだけですから、安心してください、ミナミ」
「それは、そう。分かったわ。それじゃあ、明日」
「ええ、また明日――行きましょう」
「は、」
俺はメンバーに会釈をした後立ち上がる。
そして先を行くテレサ様を追いかけた。
「クロード、今日は私の泊まる部屋に一緒に来てください」
「え、は?」
「晩酌に付き合ってください。一人で飲むのは寂しいので」
「……彼等ともう少し付き合えば良かったのではないでしょうか?」
「貴方は昔からの付き合いですから。後、他人に聞かれたくない愚痴も吐くかもしれませんし」
「それは、はい。分かりました」
聖女様の命令ならば。
俺は頷き、彼女に付き従うのだった。
◆
「う」
頭痛で目が醒める。
そして次に感じたのは肌寒さだった。
ふるふると身を震わせながら半身を起こす。
すると当然のように薄い毛布がずり落ち、衣服を身に纏っていない俺の半身が姿を現した。
ついでに、隣ですうすう寝息を立てている聖女様の裸体も露になった。
「……」
………………
………へ?
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