第22話 アンナの病状
ある日アンナは、朝早く目が覚めなかった。悪夢にうなされているように、何度も苦しそうに声を上げた。目が覚めたとき、アンナの体は汗でぐっしょりと濡れていた。額に手を当てると、どうも熱があるようだった。
アンナは病院にいこうとしたが、あの急な階段を降りることを考えると尻込みした。体がふらふらしている。アーニャに連絡をとろうかとも考えたが、病院勤務の時間中に電話をするのは気が引けた。しばらくこのまま眠っていれば、午後には回復しているだろうと思い、そのままベッドに横になっていることにした。
アンナは一日中熱に浮かされながら、レオンの夢を見た。レオンがアンナに優しく語りかけ、口づけした。その唇の感触は目が覚めてからも生々しくアンナを捕らえた。アンナは泣いた。
レオンはやはり戻ってきてはくれないのではないか。もう二度とレオンに会うことは出来ないのだと思った。
翌朝目が覚めると、アンナは朦朧とした意識の中で昨日は一日何も食べていないことに気が付いた。ベッドから起き上がろうとしたが、体が思うように動かない。まだ熱があるようだった。
しばらく前から、アンナは時々襲ってくるお腹の痛みを感じていた。重く異物感を伴う痛みだった。しばらく休んでいるとその痛みは和らいでいたので、医者にも行かずに放っておいた。しかし、今日はその痛みがなお一層ひどくなっていた。アンナは急に不安に駆られた。やはり何かの病気なのかもしれない。アンナは今日こそは医者に行こうと覚悟を決めた。
アーニャは、しばらくアンナのアパートを訪ねていなかった。恋人と過ごすことに夢中で、アンナのことは頭の隅にはあったものの、すぐに忘れてしまっていた。
ある日、フェルナンドが田舎に帰るというので、数日一人で置き去りにされた。アーニャはアンナを訪ねて一緒に食事でもしようと思った。
いつものようにハイヒールが石畳に挟まれていらいらする。この坂を登るときは、以前レオンに会いたい一心で歩いたことを思い出す。このあたりまでくると、レオンのピアノの音が響き渡っていたものだった。アーニャは懐かしい気持ちで一杯になった。
2階まで階段を登ると、アンナの部屋のドアをノックした。返事が無かったので留守だと思い帰ろうとしたが、少しだけアンナの帰りを待っていようと思い直しドアのノブに手をかけた。ドアは静かに開いた。アーニャは、アンナの名前を呼びながら部屋へ入っていった。
アンナの姿は見えない。やはり留守なのね。どうしようかと立ちすくんでいると奥の部屋から微かな物音がした。アーニャは寝室を覗いた。アンナはベッドの上にいた。アーニャはアンナの様子がおかしいことにすぐに気が付いた。あわてて駆け寄り、アンナ、アンナと声をかけた。アンナの意識は朦朧としていた。
アーニャは救急車を呼んだ。そのころには、アンナはアーニャの手を頼りなげに握っていた。激痛と高熱の中で、アンナはアーニャの姿を見て、心から感謝した。
病院に到着すると、すぐに検査が始まった。アーニャは廊下でその結果を待っていた。どうしてもっと早くにアンナを訪ねなかったか、仕方の無いこととはいえ自分を責めていた。
数時間後、医者はアーニャを見ると別室へと案内した。本当は身内の人間が検査の結果を聞くものだが、アンナの両親や兄弟の話は聞いたことがなく、連絡も取れないと事情を話した。もちろん、フランクに言えば分かるとはおもったのだが、アンナがそれを望むかどうか確認をしてからのほうがいいと思ったのだった。
淡々と語る医者の口から出た言葉は信じられないものだった。アンナの体は深刻な病魔に冒されていた。アーニャはその現実をしばらく受け止めることは出来なかった。
アンナの病室を訪ねた。アンナは眠っている。アンナにはどう話をしたらいいのか、アーニャには判断出来なかった。それに、レオンには知らせるべきなのか。でも、レオンの所在はすぐには分からない。アーニャはアンナのやつれ果ててはいるが美しい寝顔を見つめていた。アンナ・・・。アーニャは声を押し殺して泣いた。
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