5 脅す前に殺すこと!

 俺は殺し屋だ。本日、お祖父さんとその孫から殺しの依頼を受けた。


 早速ターゲットに会いに行くと、その守護霊から「呪い殺してやるぅ~!」と丁寧な出迎えがあった。


 俺は「ぬるいっ!」と一喝した。


「プロの幽霊なら『殺すぞ』と脅す前に殺すこと!」


「え、え、えっ……」


「というより、あのお祖父さんと孫が依頼するの気づいてたんなら、あの二人をまず呪い殺すべきじゃない?」


「え、え、そんなっ……」


「と言っても、俺は君の主を殺しに来たんじゃないんだけどね。それよりここ埃臭くない? 俺ハウスダストアレルギーなんだよね」


 お祖母さんの守護霊は狼狽していた。


 守護霊は十代前半の少女の外見だ。腰まで垂れた黒髪を振り乱した。白いワンピースは袖が擦り切れている。

 幽霊と言えばこの姿! と言えそうな格好だ。


 とはいえ、魂の見た目年齢がそのまま実年齢ではない。実際は彼女はもう少し年上ではないだろうか。


「……じゃあ、何をしに……?」


 守護霊の少女の声はか細く震えた。


 俺は一目で気づいた。


 彼女は一応守護霊だが天国から派遣されてきたわけではない。半ば地縛霊や背後霊の類だ。


「まずは話がこじれないように、君を祓う。このままじゃ頭蓋骨で木魚も作れん」


 少女が不可解そうに眉を顰めた。


「木魚。あれ、知らない? ぽくぽくちーんってあれ」


「ぽくぽくちーん……? 仏教の……何だっけ……? あれって木製だよね……?」


 少女が怪訝そうに、さらに首を傾げた。

 が、すぐにクワっと目を見開いた。


「――って、さっき『祓う』って言った⁉ 私を追い払うなんて! あんた正気なの⁉ いやよ、私は、彼女とともにっ……」


 俺は問答無用で、お祖母さんの車椅子の背もたれにお札を貼りつけて、少女の霊を祓った。


 お祖父さんに聞き取りをしたところ、生前この少女はお祖母さんと仲の良い友人だったらしい。

 ということは、彼女は死後も友人としてお祖母さんを見守ることに執念を燃やしていたのか。


 となると、それは裏目に出てしまったことになる。


 一度も成仏を経験していない幽霊は無暗やたらに周囲を呪ってしまうことがある。


 少女の霊は純粋に友人を守りたかったのかもしれないが、そのせいでお祖母ちゃんの家族であるお祖父さんと孫娘に悪影響が出てしまった。

 家族が殺しの依頼を出すに至るほど、不気味なオーラをお祖母さんに纏わせてしまったのだ。


 彼女はきっちり成仏した上で、守護霊として、後腐れなく現世に派遣されたほうがいい。


 ただ成仏には、霊本人の納得のもと未練をなくす必要があることがネックだ。

 今は一時的に追い払っただけだから――。



 ――いや、違うのか?



 俺の頭にとある予感が過ぎった。


 もしかすると、少女の霊を成仏させなくてもいいのかもしれない――。


 とはいえ、お祖母さんには一時追い払った少女の、代わりになる守護霊が入用いりようだ。

 それを誰に頼むか、実はもう決めていた。





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