第22話 シアと害虫
「ふぅ~‥‥‥ようやっと終わったか」
制服でシアと写真を撮った後は汚れないようにともう一度着替えて、そこからは時間も押していたこともあって黙々と掃除をした。
床の私物を片付けるのに一番時間がかかって、それから手分けして服の洗濯や窓や照明のほこりを取ったり、掃除機をかけたりしていたらお昼になるまではあっという間だった。
ベットを運びに来てくれる業者の人はもういつ来てもおかしくないので、お昼ご飯も食べれていない。
ただ、その甲斐あってかもともと色んなモノが山のように積み重なって、足の踏み場もないくらいとっ散らかっていたこの部屋は見違えるようにキレイになってる。
床には余計なものは何も落ちておらず、木目調のフローリングが露わになっていて、窓ガラスやサッシも砂ぼこり一つなく、照明も埃が取り除かれて前よりも明るさが増している気がした。
一応、この部屋に押し込んでいた俺が前に使っていた本棚やローテーブルなどのまだ使えそうな家具はそのままシアの部屋になるこの部屋で使い続けることにしたから何もないわけじゃないけれど、こうしてきれいさっぱりになると、ここに住み始めたまっさらな時を思い出して新鮮な気持ちになるな。
んで、この部屋の家主になるシアはというと。
「そんなところでなにしてんだ?」
「静かに! 今、不浄なものを察知してるところですから、ちょっと黙っててください」
「お、おう」
目を瞑って部屋のちょうど中心に立ち、いつになく真剣な表情をしているシアに声をかけると、なんかきつい口調で言い返された。
さっきから五分くらいこの調子なんだけど、いったいどうしたんだろう? てか、不浄なものとは‥‥‥?
「‥‥‥ん?」
そんなことを考えていると、ふと、視界の端にいつの日だったか興味本位で買った水着のグラビアアイドルが表紙を飾ってる週刊誌が見えた。
もともと置いてあったタンスの陰にあったから片付けるのを見落としていたらしい。
てか、なんで俺こんなの買ったんだっけ?
中を開いてぱらぱらと見てみれば、『あの人気俳優が浮気!? 相手はまさかの…‥』みたいな見出しがあって、一般女性と付き合っていた当時人気だった俳優の人がこれまた当時人気だった女優の人とホテルに入っていくところが撮られた写真が大きく張り出されてた。
で、思い出した。新キャラの設定を考えるために浮気する人たちの心理を参考にするために買ったんだったな。
にしてもこの浮気相手の女優さん、そうとう神経が図太いよな‥‥‥。婚約までしてた二人をあわよくばと虎視眈々と狙ってたんだから。しかも俳優の人も結局一般女性と別れて駆け落ちするみたいに二人で日本を出たみたいだし。
結局、残ったのはこの大スキャンダルと一般女性が振り回されたっていう事実だけ。
「まさにお相手の一般女性からしたら害虫以外のなにものでも——」
「——そこだぁっ!!」
「——なっ!?」
瞬間、シアが叫んだと思ったら、俺の目の前を赤い閃光のようなのが通っていった。
紅い閃光はすぐそばの壁に当たったと思ったら『プシュゥゥゥゥッ』と煙を上げて消える。
そしてその下からは、ナニ——具体的には見えただけで生理的嫌悪感を覚える黒い疾風のようなもの——が黒ずみになってパラパラと朽ちていった。
「——出てきたら潰す。——見つけたら決して逃がさない」
そう言いながらシアがこちらに向かって歩いてくる。その表情は柔らかく微笑んでいるように見えるものの、どこか圧のようなものを感じて。
「天斗、隙を見せたらだめですよ? まぁ、もし逃げられたとしても地の果てまで追いかけて潰しますけど、ね?」
「は、はい!」
ひょいっと、いい笑顔で俺から週刊誌を取り上げるシア。
ニコリと笑ってるのに何故か俺の背筋が震えてくる。
‥‥‥え、え? いや、もしかして俺、警告されてる‥‥‥?
「——うふふふふふ♪」
「‥‥‥っ」
笑ってるのに笑ってないような笑い方に戦々恐々と冷や汗が出てくるのを感じていたその時、ピンポーンとチャイムがなる音が聞こえた。どうやら待っていた業者の人が来たらしい。
「は~い! 私が出てきますね!」
そう言ってシアがパタパタと玄関に向かってかけていく。‥‥‥と、思ったら急に振り返って。
「——ぜぇったいに、ダメですからね?」
「——っ!(コクコク)」
「よろしい。——は~い! 月城ですっ♪ 今行きま~す!」
部屋から完全にシアが出て行って、俺はガクリと膝に力が入らなくなってその場でふにゃふにゃとへたり込む。
うん。これは胸に刻み付けて置こう。きっと少しでも魔が差したりしたらきっとあの黒き疾風のように消し炭にされるに違いない。
「——浮気。ダメ。絶対」
これはもう、我が家の家訓だな‥‥‥。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます