第19話 シアと掃除 その二
「ふぅ~‥‥‥とりあえずこれで一番存在感があったペットボトルとダンボールは片付いたな」
掃除を始めてから約一時間。ひたすらダンボールをたたみ、ペットボトルを潰し続け、最終的に合計で縛ったダンボールの数が七個、ペットボトルで埋まったゴミ袋が三個できた。
うん、我ながら放置しすぎてたな‥‥‥これは、シアに言われるまでもなく反省しておこう。
「そうですね。でも、まだ少ししか床が見えてませんよ」
「‥‥‥そうだな」
しかしこれだけやっても本来のフローリングはまだ半分も見えていない。ほんとに色々なものを放り込んできたからなぁ。
「このままだとベッドが来るまでに終わらないかもしれませんね‥‥‥」
そう言ってシアが考えるように部屋全体を見回して、「よしっ」と気合を入れるように頷く。そして俺の方を見てきた。
「天斗! ここからは手分けしてやっていきましょう!」
「それはいいけど、どうやって?」
「とりあえず、落ちている服は洗濯籠に入れておきましょう。洗って干すにしても掃除している間に埃がたちそうですし、たくさん干す場所がありませんから。やるとしても急いでやる必要はないことですし、掃除が終わった後でもいいですね」
「そうだな」
「次に、雑誌でしょうか。これらは集めているわけではなさそうですし全部処分してしまっていいですか?」
「うん。もう読み終わったやつだし、ファッション誌も買ったはいいけどあんまり参考にならなかったのも多いから、そもそも何年も前のやつだからね」
「では、私はその二つをやろうと思います。天斗は雑貨などを必要なものと捨てるものに整理してください。私にはなんだかわからないものもあるので天斗がやった方がいいでしょう」
「確かにな。それじゃ、さっそく始めるか」
「おーっ!」
ということで、二人で分担して片付けていくことになった。
シアは洗面所から洗濯籠を持ってきて、床に散らばっているもう着なくなった服を次々と放り込んでいき、近くにある雑誌から積み重ねていく。
その様子を横目に俺はゴミ袋を片手に持って必要なものの整理だ。
しかしまぁ、こうしてこの部屋をひっくり返してると色んなものが出てくるな‥‥‥。
高一の時の修学旅行で京都に行った時に買った木刀‥‥‥夢原と「京都に修学旅行といったらこれを買うのがお約束だよね!」とかなんとか言って買ったやつだ。絶対いらないって分かり切ってるのに買っちゃうよね。
それから卒業旅行で沖縄に行った時に買ったゴーヤのバナナケースや胸元に『ぱいなっぷるん』って書いてあって谷間ができる面白Tシャツとか‥‥‥いや、ほんとなんで買ったんだ。
他にも奈良の大仏を見に行った時に買った馬のマスクならぬ鹿のマスクだったり、日光東照宮のミニュチュア模型だったり、折れたスカイツリーの貯金箱だったり。
なんか、変なものばっかり買ってるなぁ‥‥‥。
今までこんなのを買ったのさえ覚えてなかったよ。まぁでも、こうして一つ一つ改めて手にして見ると、それを買った時の出来事を思い出すから不思議だ。
‥‥‥いや、待てよ。俺がものを捨てられなくて放置することになるのはこうして感傷に浸って捨てなくていいかって思うからじゃないか?
うん、そんな気がする。ここはなるべく心を断捨離にしてしていこう! 今の俺はダンシャリだ! ‥‥‥インドの神様にいそうだなダンシャリって。
ていうか、掃除しながらこんなバカなことを考えてるから俺は掃除ができないんだな。
逸れつつある思考を修正しつつ、なんとなくシアの様子を見てみる。
シアはまずは散らばっていた服を一か所に集めたようで、律儀にも一枚一枚畳みながら洗濯籠に入れている。
その手際の良さたるや、普段から服を畳むという習慣がなかった俺からしたらレベルの違いを感じさせられるほどだ。
「シアってさ、結構家事万能だよね」
「え? なんですかもぉ! いいお嫁さんになるだなんて! 今日のお夕飯のおかず一個おまけしちゃいますよ!」
「いや、そこまでは言ってない」
でも、実際異世界の吸血鬼にやらせるのはどうかと思ってたけど、いざやらせてみせたら最初は失敗もあったけど、料理も掃除も洗濯もほぼこなしてくれてる。
「なんかそういう家事の経験とかあったりするの?」
「いえ、私自身は最低限に身の回りのことはできましたけど、こうやって本格的に家事をすることはこっちに来るまでなかったですね」
「へぇ~、じゃあここに来てから覚え始めたってことか、すごいな」
俺が初めて一人暮らしを始めて家事を自分でやり始めた時はなかなかうまくいかなくて、なんだかんだ一年くらい失敗することがあった気がするし。
そんな風に感心してると、シアはさも当然ですというように胸を張っていた。
「天斗のためなら私はどんなことでもできますからね! そのための努力なら惜しみませんよ!」
うーむ、いつも通りシアの愛が重いな。
「その気持ちは嬉しいけど、ほどほどにね」
内心で苦笑しつつそう言って、ちょうどいまシアが畳もうと広げた服が目に入る。
「——あ」
「どうしました? ‥‥‥え?」
シアも今、自分が畳もうとしたものが何だか分かったらしい。
明らかに俺の家にあるわけがないもの。
そう、シアが今持っているのは俺の卒業した高校の”女子の制服”だった。
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