繰り返される死の体験! 敵は時間と人生を奪う吸血鬼! 無間地獄に立ち向かえ!
「ワタクシを打ち砕く? 調子に乗らないことですねエルフごときが!」
ピーチタイフーンの言葉に激高するデラギア。言うと同時にピーチタイフーンに近づき、その体をつかんで持ち上げる。
「ワタクシが奪った『人生』は吸血鬼のモノばかりではない。非業の死を遂げた合われた下民の人生も奪っているのです。
そして『
言うなりデラギアはピーチタイフーンを抱えたまま跳躍し、そのまま空中で反転。脳天からたたきつけるように地面に落とす!
「脳天直下の投げ技か。しかし首を鍛えれている私にとって、この程度の落下距離は致命傷にはならんぞ」
「この程度の落下? 御冗談を。貴方には落下して死んでいった者たちの『人生』の苦しみを味わ咳てあげましょう! さあ、落下死を追体験しなさい!」
デラギアは奪った『人生』をピーチタイフーンに与える。それは人生の疑似体験。現実としては一秒に満たない体験だが、味わった者からすればその時間こそが現実。わずか一秒の間に、無数の人生を経験するのだ。
『やめろ、彼女を攻撃するのは、やめてくれ……!』
断崖絶壁の崖に腕一本でつながっている自分。愛した人が手をつないでいるが、その後ろで自分を崖から落とした存在が笑みを浮かべている。苦しそうに耐えている愛する人をそいつが蹴り、自分を落としてて楽になるようになじっていく。目の前で愛する人が傷つき、そして力が緩んでいく。そして自分をつかむ手は離れ、愛する人が絶望する顔が魂に焼き付く――!
グシャア!
『もう、おしまいだ……』
背負った借金。離れていった友人と伴侶。もう自分には何も残されていない。すべての負債を抱えた自分がここから跳びおりれば、すべて解決する。そう思うことで前を踏み出す勇気が出てくる。
グシャアア!
『やめろ、俺たちは、俺たちは仲間だろうが……!』
それは絶望のゲーム。断崖絶壁の闘技場の上で、生き残れるのはわずか数名。背中を預けていた親友に不意打ちを食らい、今闘技場から突き落とされそうになっている。信じていたのに、信じていたのに!
グシャアアア!
『ああ、もう、どうしようも、ない……』
それは生贄の巫女。龍に捧げられた王国の姫。火口に落ちていく自分が見たのは、赤いマグマとそれよりも赤いい鱗を持つドラゴン。ドラゴンの瞳に宿るのは、愉悦。恐れから贄を捧げる人間の愚かさを嗤う存在。龍が食らうは人肉ではない。人の愚かさなのだと、最後に知った。
グシャアアアア!
グシャアアアアア!
グシャアアアアアア!
何度も、何度も、何度も落下して叩き付けられる。その際に心は絶望し、助からない自分自身に諦める。落ちるのは体。そして心。強く地面に叩きつけられた心と体は、決して立ち上がることができないだろう。
一度地面に叩きつけられただけなのに、感じるのは無限の落下。無限の絶望の感情。数多の落花死を経験したピーチタイフーン。その精神に渦巻くのは、無限の恐怖、無限の諦念、無限の虚無!
それが現実の衝撃と共にインパクトとなり、体と心を同時に折った!
「何がレスラーか。しょせんは体が頑丈なだけ。空だと同時に心を折れば、それでおしまいです。さあ、その泣き顔を皆にさらしなさい」
言ってピーチタイフーンの髪の毛をつかんで顔をあげるデラギア。
「悪いがTKOには少し早いな」
顔をあげたピーチタイフーンは、言って笑みを浮かべた。そのまま立ち上がり、髪の毛をつかむ手を払う。
「なんだと!? 絶望の人生に耐えたというのか!? 精神攻撃無効の
「いいや、かなり堪えた。絶望しなら落ちていくしかない者たちに共感し、涙すら流した」
涙をぬぐうピーチタイフーン。苦しみ、嘆き、絶望した跡がそこにある。
「だからこそ、その悲しみを背負うと決めた。彼らはあがき、それでも届かなかった。そのバトンを受けとり、前に進むのがレスラー!」
「ええい、わけがわかりません! ならばこれでどうです!」
デラギアはピーチタイフーンの首に手を伸ばす。両手で首を締めあげながら、吸血鬼の力と血魔による身体能力増加能力を用いてそのまま持ち上げる。ネック・ハンギング・ツリーの状態で新たな『人生』をピーチタイフーンに経験させる。
「頸部圧迫。このまま絞殺死される苦しみを追体験しなさい。無限の苦しみの中、様々な苦悶と抗うことのできない絶望を知りなさい!」
「レスラーの首を侮るな。この程度の圧迫、耐えて見せよう!」
「減らず口を叩けるのは、今のうちですよ!」
『違う。違う。俺は無実だ!』
目隠しをされ、階段を歩く。俺は何もしていない。俺は罪を犯していない。無実の訴えは聞き遂げられず、こうして叫ぶ声も空しく響いて消える。悪いのは俺じゃない。あいつなんだ。頼む、もう一度裁判を! もう一度調査を! しかし首に縄をかけられ、足元が消える。そのまま首が絞められ――
ザザザ……!
『やめろ。お前は騙されているんだ!』
愛する人に首を絞められる。だました相手が後ろで笑っている。違うと言葉を投げかけようにも、締められた首から出る声は言葉にならない。言葉になったとしても、届いただろうか? 愛していた。信じていた。なのに、どうして俺の事を愛してくれない? 信じてくれない? ああ――
ザザザザ……!
『来るな来るな来るな来るな来るなあああああああ!』
からめとられた自分。巨大な蜘蛛の巣。巨大な蜘蛛。常識を超えた怪物を相手にできることなど何もない。命を奪われ、捕食され、この世界から消えるのだ。絡みつく蜘蛛の糸が首を絞めつける。いや、これは首を斬るほどの締め付けだ。痛みはしばらく続き、そして――
ザザザザザ……!
無限の圧迫。無限の窒息。無限の首攻め。人生の終わりを何度も追体験し、そして終わる。酸素不足にあえぎ、絶望にあえぎ、そして地面に倒れるピーチタイフーン。
「無限の死、無限の絶望! この世で最も無様で苦しい死に方は窒息! 幾度となくその終わりを経験すれば、いかに貴様とて――」
「言っただろう。レスラーの首を侮るなと!」
デラギアの言葉が終わるより前に立ち上がるピーチタイフーン。その様に、デラギアは驚きを隠せない。
「あり得ない! ワタクシの攻撃に二度も耐え、しかも未だ戦意が折れないなどと!
四天王ならいざ知らず、ただのエルフごときにそのようなことができるはずがない!」
「デラギア。これは技はお前の技ではない。お前の技に追加して、他人の人生を味合わせただけだ。
いわばお前は他人の経験を利用して扱っているに過ぎないのだ」
「だから何だというのだ! ワタクシが与えた追体験は幻覚ではない! 死の瞬間を味わせた。死に値するダメージは確かに受け、死の恐怖は確実に訪れたはずだ!」
「確かに幾度となく衝撃を受け、幾度となく悲劇を背負った。だが、それは他人の経験! それを背負い、立ち上がるのがレスラー!
そしてレスラーの締め技を受けるがいい!」
言葉と同時にデラギアに向かって跳躍するピーチタイフーン。相手の肩に飛び乗り、そのままデラギアごと地面に倒れこむ。背後から抱え込むように太ももを4の字で締め付けデラギアの首を攻める! 首4の字固めだ!
「うぐぅ……! しかしこの程度……!」
「これで終わりと思うな!
言うなりピーチタイフーンは拘束を解き、デラギアの両手を押さえながら逆方向から攻める。デラギアの顔に尻を押し付ける形で真正面から太ももで首を絞めつけた! 足の力で圧迫し、腕を引っぱり痛めつける。背後から締め付ける首4の字固めから、真正面から占める太もも締めへの移行! 二重の首を絞める連続技!
解放されたと思った瞬間にさらなる首絞め。息を吹き返した瞬間に、また呼吸困難に陥る太ももと尻による圧迫地獄!
それは一人のレスラーによる技術が生み出す連続の締め。数多の研鑚と努力の末に生み出された桃色の締め技アリ地獄。他人の経験を押し付けた
「あり得ません……! たった一人のエルフの技が、ここまでのダメージをワタクシに与えるなどと!」
二重の首絞めから解放されたデラギアは、呼吸にあえぎながら立ち上がる。まさか、自分がこのような苦しみを覆うとは思いもしなかった。そんな顔でピーチタイフーンを睨みつける。
「その身に味わうがいい、レスラーの技を! そして知るがいい、正しく培った経験による強さを!」
デラギアは、努力することを知らない。『
「レスラー? 経験の強さ? そんなものは要りません。貴様らはワタクシに奪われるだけの存在。その強さも、何もかもは奪われるのです。弱いものは奪われ、そして嘆くしかないのです!」
『弱い』と言われたデラギアは、同族の吸血鬼に虐げられ、奪われてきた。弱いものは奪われて当然なのだ。たとえ悪辣だとしても、たとえ卑劣だろうとも、たとえ防いだとしても、この『
「ワタクシは間違っていない。ワタクシを見下す者は皆『
ワタクシを馬鹿にするものは、皆死ねばいい! 貴様もです、ピーチタイフーン!」
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