第3話
それから1時間後、僕はそのまま自宅に帰ったはずなのだが、
「どうして僕はここに居るんでしょうか」
僕は自宅ではない、別の借家であろう場所に拉致されていた。
家に置いてあるはずの荷物と共に。
「俺と協力して堕天使を救うんだろ?なら一緒の建物に住むべきだろ」
「だからってこうする必要はないんじゃないですかね」
僕はロープでぐるぐる巻きにされ、身動きの取れない状態だった。
「ちっちゃいことは気にすんな。お前の住んでたところはきちんと引き払った後にこっちに契約してやったから」
「どう見ても大変なことですけど!?何してくれてるんですか?」
僕はどうしようもなく大変な選択をしてしまったらしい。
翌日
諦めて寝た僕は、漂ってくる美味しそうな匂いにつられて目を覚ました。
共にご飯を食べる所である1階に降りると、見知らぬ女性が料理を作って待っていた。
「あなたがペトロ君ね?経緯は聞いたわ。ルーシーがごめんなさいね」
「いえ。僕が選んだことなので。とりあえずお名前を聞いても良いですか」
「あら、言っていなかったのね。私はランセット・シャループよ」
「ランセットさん、これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね。それと、あの子をよろしくね」
「はい」
ルーシーさんとは違い、温厚で優しい方のようだ。ルーシーさんみたいな人だったらやっていけるか不安だったから良かった。
「おはよー」
目をこすりながら階段から降りてきた。
「ルーシー、さっさと飯を食べるわよ」
「あいよ」
今日の献立はコーンスープにパン、スクランブルエッグにサラダと一般的な朝食に見られるものだった。
味は非常に美味しく、出てきて二日しか経っていないのにホームシックになってしまいそうだった。
「なあぺトロ、今日は用事あるか?」
「まだ学校は始まっていないので無いですけれど」
「じゃあ行くぞ」
「は、はい」
僕は強引に腕を引っ張られ、家を出た。
「どこに行くんですか?」
「まあまあ、着いてこい」
何も教えられず、導かれるがままに辿り着いたのは酒場だった。
「もしかして、昼間からお酒ですか?」
こんな歳から、そんな人間にはまだなりたくないんだけれど。
「ちげえよ。流石にこんな日中酒場に入り浸るような男ではない」
この人なら若干ありえそうだと内心思いながら、後ろを付いて中に入る。
昼間だからか人はあまりおらず、その少ない客は酒を飲んではいなかった。
「酒場なのに酒を飲む人は少ないんですね」
「ここは飯が美味いからな。正直酒はおまけ扱いだ」
「おまけとはなんだ。ま、飯が美味いって言われるのはありがたいんだけどな」
ルーシーの言葉に、酒場のマスターが反応した。
「よおダンデ。そろそろ普通の飯屋にしねえか?そっちの方が絶対人気が出るぞ」
「副業で儲かってるからこれでいいんだよ」
「それもそうか。んで、情報ってなんだ?」
ルーシーさんがカウンターの前に座る。
「その前にこいつについて教えてくれよ」
「こいつか?俺の新しい助手のペトロだ。よろしくしてやってくれ」
そう言って僕の肩に腕を乗せるルーシーさん。
「よろしくお願いします」
「ペトロか、よろしくな。お前さんは人間みたいだし、どこでこいつと知り合ったんだ?」
「この間知り合った女性が堕天使で、目の前で暴走してしまったところを助けてもらったんです」
それを聞いたダンデさんが悲しそうな顔をする。
「災難だったな。辛くないか?」
「正直、辛いです。だけど前に進むしかないですし、これ以上あの方みたいな天使を生み出さないように頑張るしかないです」
それに、もしかしたらあの人に辿り着けるかもしれない。
僕の決意を聞いたダンデさんは安心した表情をして、
「お前は強いんだな」
「ありがとうございます」
正直自信は無いけれど、強くあろう。
「ダンデさんはどうやって知り合ったんだ?」
ダンデさんは頭を掻いて、
「堕天使になっていたところを助けられたんだよ」
と言った。当時の事を思い出すと恥ずかしいのだろうか。
「あん時のお前は傑作だったなあ」
ルーシーさんがダンデさんを揶揄う。
「うるせえ。それがあるからこうして美味い飯が出せてるんだ。感謝された方が良いくらいだ」
「どんな欲望だったんですか?」
大体見当はついているけれど。
「言わなくてもルーシーがどうせ言うだろうし、仕方ねえか。美味い飯が作りたいって欲だよ」
「こいつ、飯をたくさん作りすぎて食べきれないからって他の人に配ってたんだぜ」
「それで有名になってルーシーさんに助けられたってわけですね」
なら酒場じゃなくて飯屋の方が良い気がするけれど、気にすることでもないか。
「んで、情報ってのは何なんだ?」
ルーシーさんが本題に戻す。
「新しい堕天使かもしれないやつってのの情報だ」
ダンデさんが周囲に聞こえないように話し出す。
「図書館の近くの店に一週間に二個はぬいぐるみを買って帰る貴族の女がいるって話を聞いてな」
「ほう」
「それも貴族ならありえなくも無いのかって程度で済むんだが、詳しく調べてみたところ、子供はおらず、誰かに寄付をしている様子も無い。つまり家に貯めこんでいる」
「まあ趣味の線もあるしな。金を大量に抱え込んでいたらありえなくもない」
「確かにそうだな。だが、不可解な点はそれが三か月位前から急に始まったこと。以前はそもそもぬいぐるみを買うためにそういう店に通ったという情報すらない」
「突然そうなったって可能性が高いってことか。急に目覚めたにしては数が多いし、調べてみる価値はあるか」
「そしてこれがその女の住所だ。好きに使ってくれ」
ダンデさんが住所の書かれた紙をルーシーさんの手元に置く。
「ありがとよ。今回の報酬だ」
ルーシーさんはポケットから金貨を取り出し親指でピンと飛ばす。
ダンデさんはそれを上手にキャッチし、
「別にこんなにお礼は要らねえんだけどな。なら飯でも食べてってくれよ」
「腹膨らませて家に帰るとあいつがうるせえんだよ」
「ははっ。それもそうか」
大家さんの事だろう。朝食だけでなく夕食も一緒に食べるなんて非常に仲が良いらしい。
今後は僕も一緒なのだろう。
「じゃあな」
「ありがとうございました」
「おう、頑張って来いよ」
僕達は酒場を出る。
「よし、じゃあ行くか」
ルーシーさんは住所の書かれた紙を片手にその女性の所まで向かう。
「ここが例の女の家か」
辿り着いた家は案外普通のアパートだった。ぬいぐるみが好きだと言っていたが、外からはメルヘンな要素は感じ取れない。
「こんにちは~」
ルーシーさんは何の躊躇いも無くドアを叩いた。慣れているんだろうなこの人。まあ慣れていなくても躊躇しなさそうだけど。
「はい、どちら様でしょうか」
少し待った後に女性が出てきた。ぬいぐるみを集めていると聞いたのでどこかゆるいというか、可愛い系の人が出てくるかと思いきや、バリバリのデキる女性のような風貌だった。
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