第24話 ちなつとけいし(8)

「手伝ってくれてありがとうね、けいしくん」

「別に。力ある方がやった方が早いだろ」

 気前よく笑いながら、けいしは抱えた本の山を机の上に置いた。


 一月。季節と学期の変り目ということで、図書室では本の整理と入れ替えが行われている。放課後の作業担当になった図書委員のちなつを、けいしが手伝いに来ていた。


「さっさと終わらせて帰ろうぜ」

「うん、あとこの山だけ終わらせれば……痛っ」

 ページの汚れを確認していたちなつが、突然小さく悲鳴をあげた。


「どうした?」

「切っちゃった」

 その手元を覗き込むと、小さな白い指先に真っ赤な血が滲んでいる。

 本のページで切ってしまったらしい。乾燥する冬には、こういうことが起こりやすい。


「うわ、痛そ。大丈夫?」

「うん。よくあることだし」

 顔をしかめるけいしの隣で、平然と傷口を眺めながらちなつは言った。


「ポーチから絆創膏取ってくれる?」


 指示されたけいしはちなつの鞄に手を突っ込み、小さな水色のポーチを取り出す。ファスナーを開けて絆創膏を探し出すと、ちなつに向き直る。


「手、出して」


 ちなつはぎょっとして両手を振った。


「え、いいよ。自分でできるよ」

「いいから」


 けいしはすかさずその手を捕まえて自分の前に引っ張った。傷の位置を確認し、絆創膏の包みを剥がす。観念したちなつはされるがままだ。


 けいしは慎重にちなつの手に触れた。


 その瞬間、ちなつの胸がどきりと跳ねる。



 何をするにも粗暴な彼が、すごくすごく丁寧に、とても大切なものに触れるかのように、自分の手に触れている。放っておいても治るような小さな傷を、心底心配そうに見ている。



(あぁ、私……)



 思わぬタイミングで感じた愛情に、ちなつの頬が朱色に染まる。


 緩みもズレもなく、かといってきつくもない丁度よい加減で、絆創膏が貼られた。


「ありが」

「よし!」


 照れながらお礼を言いかけたちなつを遮るように、けいしが大きな声で言った。


「綺麗に貼れた! もう大丈夫だからな!」


 にかっと満足気に笑うけいし。



(ロマンティックが台無しじゃない)



 ちなつは呆れたように苦笑した。けれどけいしのこういう明るさと優しさが、ちなつにはどうしようもなく愛おしいのだ。


「ありがとう、けいしくん」


 ちなつはそう言って静かに笑った。


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