第2話 もう男なんていらない

 ミカエルに婚約を破棄されて私は誓った。

 もう男なんていらない。こんなに心をかき回されてつらい思いをするのなら、もう恋愛なんてしたくない。

 そんな思いに支配された私は、改めて考えた。

 では、これから女一人でどうやって生き抜いていこうかと。

 この乱世の中、女一人で生きていくのは大変だ。平民の私には、貴族のように勝手に税金が入ってくるようなシステムはない。生きていくためには自分で稼ぐしかないのだ。


 自分の得意分野。

 それで勝負していくしかないか。

 そう思った私は、ない知恵をふりしぼり、自分の得意だったことを思い出していた。


「アナスタシア、君は魔法の才能があるよ」


 小学生の頃、担任の先生がよく私に言った言葉だ。

 回復系の白魔法の授業の際、誰よりも早く枯れかけた草花をよみがえらせたのは私だった。特別講師として外部からやってきた白魔導師でさえ、私の力に目を丸くしていた。


「あなたは将来、名のある魔法使いになる可能性があるわ」

 年配の白魔導師は、私の魔法の力を高く評価してくれた。


 けれど私はあることがあって、自分の魔法を封印した。

 魔法高等学校に進学した私はそこでも当然のごとく上位の成績をおさめていた。

 心のなかではこう思っていた。

 回復系の白魔法なら誰にも負けない。白魔法の分野で名のある魔法使いになってやる。

 しかし、そんな私の鼻がへし折られる事件が起こったのだ。


  ※ ※ ※


「よし、今からこの枯れてしまった木片をよみがえらせるぞ」


 魔法高校時代、私たちは課外授業で学校の裏山に来ていた。

 魔術課の先生が手に木の枝を持っている。

 あきらかに枯れてしまっているように見える。


「先生、枯れて命を失ってしまった枝をよみがえらせることはできないんじゃ……?」

 生徒の一人が声を出した。


 その通りだった。

 いくら回復魔法を使おうが、死んでしまった枝には効果がない。


「いいか、この枝は死んでいるように見えるが実はそうではない」


「死んでいないのですか?」


「そうだ。さし木という言葉を知っているか? この枝は土にさすと、やがて根を生やす枝なんだ」


「でも……、いくらなんでも、そんな枝は……」


「そう思うか? ではまず私が見本をみせるぞ」

 先生はそう言うと足下に魔法陣をはりはじめた。

 足の下に描かれた幾何学線描の円が黄色く輝きはじめる。

 やがてその光が浮き上がり、先生の周りを包んでいく。


「エリファーブラム、コンデルサイアー!」


 先生が術式を唱えると、手に持つ枝が揺れはじめる。


「エリクリー、ライファー!」


 スーッと魔法陣の光が解けてくる。


「うぉー」

 生徒たちから歓声があがった。


 先生の持つ枝、ただの木片だった枝から、緑の葉が一枚、自分の生命を主張するように生えてきたのだった。


「死んでいると思っている枝でも、まだこうして葉を生やすことが可能なんだ。どうだ、誰かやってみるか」

 先生はそう言って生徒たちを見回した。


 じっと先生の魔法を見つめていた私に、先生の目が止まる。


「アナスタシア、やってみろ。君ならできるかもしれない」

 先生はそう言って、新たな木片を私に差し出したのだった。

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